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2023/02/16

大手拓次譯詩集「異國の香」電子化注始動 / 序詩・「異國のにほひ」(ボードレール)

 

[やぶちゃん注:本訳詩集は、大手拓次の没後七年の昭和一六(一九三一)年三月、親友で版画家であった逸見享の編纂により龍星閣から限定版(六百冊)として刊行されたものである。

 底本は国立国会図書館デジタルコレクションの「国立国会図書館内/図書館・個人送信限定」のこちらのものを視認して電子化する。本文は原本に忠実に起こす。例えば、本書では一行フレーズの途中に読点が打たれた場合、その後にほぼ一字分の空けがあるが、再現した。

 以下、見返し・扉と続き、次に大手拓次の「序詩」。以下、本文冒頭の「異國のにほひ(ボードレール)」となる。「序詩」は有意にポイント落ちであるが、読み難くなるだけなので、再現しなかった。――66になった遠い思い出に始動する――]

 

 

   異國の香 大手拓次譯詩集

 

 

   異 國 の 香

 

 

 

     序 詩 おほて・たくじ

 

   手に微笑の丘を秘めて

   うづくまる陰影のいきものは

   秋の眞晝のごとく

   言葉をかろくにごらせて

   とほく彼方の魂をよみがへらす

 

 

 

 

  異國のにほひ ボードレール

 

秋のあつたかいゆふぐれに

ふたつの眼をとぢて、 おまへの熱い胸のにほひをすひこむとき

わたしは單調なる太陽の火のきらきらする

幸福の濱べのあらはれるのをみる。

 

めづらしい樹と美味なる果物とを

自然があたへるところの懶惰の島

へいぼんな、 つよい肉體をもつた男たち

またはれやかな眼でびつくりとさせる女たち

みいられるやうなこの季節にあたり、 お前のにほひにみちびかれて

わたしはぼうつとした海の景色につかれはてながら

帆と帆ばしらとにみちた港をみる。

そのときに空氣のなかをとびめぐり鼻のあないつぱいになる

みどりいろの羅望子(タマリニエ)のにほひが

わたしの靈魂のなかで水夫のうたともつれあふ。

 

[やぶちゃん注:本篇は「国立国会図書館サーチ」の「ボードレール = Charles Baudelaire : 明治・大正期翻訳作品集成」(ボードレール著/川戸道昭・榊原貴教編集/二〇一六年大空社刊)の書誌で調べたところ、大正六(一九一七)年三月一日発行の『感情』初出であることが判明した。原子朗編「大手拓次詩集」(一九九一年岩波文庫刊)の年譜によれば、当時、大手拓次は満二十九、前年六月に「ライオン歯磨」広告部文案係に就職している。その大正五年十一月には本書の編纂者逸見享ら(社友・同人計八名)とともにボードレールの作品名をとって『異香詩社』を結成、翌年一月に『異香』創刊号を出したが、それ一回で潰れている。原子朗「定本 大手拓次研究」(一九七八年牧神社刊)に、初出『感情』のものに原氏が原詩の三、四連の行空けがないのは、雑誌編集者の恣意とされ(すこぶる同感である)、行空けを施したものを掲げておられる(196197頁)ので、以上の正字のものを用いて、以下に再現する。

   *

 

  異國のにほひ ボードレール

 

秋のあつたかいゆふぐれに

ふたつの眼をとぢて、おまへの熱い胸のにほひをすひこむとき

わたしは單調なる太陽の火のきらきらする

幸福の濱べのあらはれるのをみる。

 

めづらしい樹と美味なる果物とを

自然があたへるところの懶惰の島

へいぼんな、つよい肉體をもつた男たち

またはれやかな眼でびつくりとさせる女たち

 

みいられるやうなこの季節にあたり、お前のにほひにみちびかれて

わたしはぼうつとした海の景色につかれはてながら

帆と帆柱とにみちた港をみる。

 

そのときに空氣のなかをとびめぐり鼻のあないつぱいになる

みどりいろの羅望子(タマリニエ)のにほひが

わたしの靈魂のなかで水夫のうたともつれあふ。

 

   *

「羅望子(タマリニエ)」原詩の“tamariniers”。マメ目マメ科ジャケツイバラ亜科タマリンド属タマリンド Tamarindus indica の、ここは、その木の茂った葉の匂い。アフリカ原産で、インド・東南アジア・アメリカ大陸などの亜熱帯・熱帯で栽培される。

 以下、原詩を示す。フランス語サイト‘Les Grands classiques’のこちらのものを、前掲(後者)の原氏の同書に載る原文と校合した。

   *

 

   Parfum exotique   Charles Baudelaire

 

Quand, les deux yeux fermés, en un soir chaud d'automne,

Je respire l'odeur de ton sein chaleureux,

Je vois se dérouler des rivages heureux

Qu'éblouissent les feux d'un soleil monotone ;

 

Une île paresseuse où la nature donne

Des arbres singuliers et des fruits savoureux ;

Des hommes dont le corps est mince et vigoureux,

Et des femmes dont l'oeil par sa franchise étonne.

 

Guidé par ton odeur vers de charmants climats,

Je vois un port rempli de voiles et de mâts

Encor tout fatigués par la vague marine,

 

Pendant que le parfum des verts tamariniers,

Qui circule dans l'air et m'enfle la narine,

Se mêle dans mon âme au chant des mariniers.

 

   *

本篇は詩集「悪の華」(Les Fleurs du mal)の初版(一八五七年)に発表したもので、彼が二十歳の時に出逢って、二十年余り同棲生活をした、まさにファム・ファタール(femme fatale:宿命の女)と呼ぶに相応しいパリ・パンテオン座の下っ端女優でサント・ドミンゴ生まれの混血であったジャンヌ・デュバル(Jeanne Duval  一八二〇年~一八六二年)を讃えた一群の「ジャンヌ・デュバル詩篇」の一つとしてよく知られるものである。原氏も讃えておられるが、何より、本篇の訳は後代の知られた訳者らからは、飛び抜けて古いにも拘らず、拓次は逐語的ではなく、しかも、ボードレールの詩想をしっかりとつらまえ、さらに、「オホテ・タクジ・ワールド」の自家薬籠中のものへと変じていて、実に素晴らしい。なお、以下のボードレールの詩篇は総て「悪の華」に載る詩篇である。]

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