大手拓次譯詩集「異國の香」 うた(ギユスターブ・カアン)
[やぶちゃん注:本訳詩集は、大手拓次の没後七年の昭和一六(一九三一)年三月、親友で版画家であった逸見享の編纂により龍星閣から限定版(六百冊)として刊行されたものである。
底本は国立国会図書館デジタルコレクションの「国立国会図書館内/図書館・個人送信限定」のこちらのものを視認して電子化する。本文は原本に忠実に起こす。例えば、本書では一行フレーズの途中に句読点が打たれた場合、その後にほぼ一字分の空けがあるが、再現した。]
う た カアン
おおはなやかなきれいな四月、
おまへの陽氣な唄のこゑ、
白いリラ、 さんざしの花、 枝をもれくる黃金(こがね)の日ざし、
でもわたしに何であろ、
可愛い女は遠くへはなれ、
北國のさ霧のなかにゐるものを。
おおはなやかなきれいな四月、
二度の逢瀨はつれないゆめよ、
おおはなやかなきれいな四月、
かあい女がまたやつてくる。
リラの花、 黃金(きん)の日ざしの花かざり、
もう、 わたしは有頂天、
はなやかなきれいな四月。
[やぶちゃん注:ギュスターヴ・カーン(Gustave Kahn 一八五九年~一九三六年)はフランスの詩人。サイト「鹿島茂コレクション」の「18,19世紀の古書・版画のストックフォト」のこちらによれば、メッス生まれ。国立古文書学校を卒業後、四年間、アフリカに滞在した。その後、パリで『ヴォーグ』(La Vogue:「流行・人気」の意)、『独立評論』(Revue independante)の『両誌で、編集者としてアルチュール・ランボー、ジュール・ラフォルグらの作品を積極的に紹介し、また、自ら』も、詩人として「自由詩」(Vers libre)を『実践することで当時の文学運動の中心的存在となった。また美術批評も多く残しており、紹介文を書いている』美術評論家『フェリクス・フェネオン Felix Feneon』(一八六一年~一九四四年)『とともに後期印象派の画家たちを擁護した』とある人物である。幾つかのフランス語の単語で検索したが、原詩は遂に見当たらなかった。
「リラ」フランス語「Lilas」。モクセイ目モクセイ科ハシドイ属ライラック Syringa vulgaris のこと。紫色の花がよく知られるが、白いものもある。学名のグーグル画像検索をリンクさせておく。
「さんざし」「山査子・山樝子」で落葉低木のバラ目バラ科サンザシ属 Crataegus。タイプ種はサンザシ Crataegus cuneata。同前(属名)でリンクを張っておく。]
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