大手拓次譯詩集「異國の香」 沈默の町(リヒャルト・デーメル)
[やぶちゃん注:本訳詩集は、大手拓次の没後七年の昭和一六(一九三一)年三月、親友で版画家であった逸見享の編纂により龍星閣から限定版(六百冊)として刊行されたものである。
底本は国立国会図書館デジタルコレクションの「国立国会図書館内/図書館・個人送信限定」のこちらのものを視認して電子化する。本文は原本に忠実に起こす。例えば、本書では一行フレーズの途中に句読点が打たれた場合、その後にほぼ一字分の空けがあるが、再現した。]
沈默の町 デーメル
町は谷のなかに橫はり、
靑白い日はうすれて亡ぴた。
さて、 月が消え、 星の光が失せるのも間もないだらう、
そして夜がただ空を滿すのだ。
山々の峯からは、
霧が出て町をとりまく、
畑も、 家も、 また濡れた紅い家根も
この厚い織物を通すことは出来ない。
いや、尖塔や橋でさへも出來はしない。
けれど、さすらひ人が身ぶるひするとき。
その暗い丘に
光りの條(すぢ)が彼の心を悅ばす、
そして、 烟と靄と子供らの聲から
讃美の歌がはじめられる。
[やぶちゃん注:作者については、前回の私の注を参照されたい。また、そちらと同じ理由で原詩は原詩は示さない。
「橫はり」「よこたはり」。]
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