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2023/03/26

佐々木喜善「聽耳草紙」 一五番 黃金の牛

 

[やぶちゃん注:底本・凡例その他は初回を参照されたい。今回は底本はここから。]

 

   一五番 黃金の牛

 

 昔、遠野の小友《をとも》村に長者があつた。その家に丁人の下男が居たが、此男は俺は芋を掘ると言つて年がら年中暇さへあれば鍬を持つて近所の山に入り、彼方此方《あちらこちら》と土を掘つて居た。村の人達はあれアまたあの芋掘りア山さ行くぢえと言つて笑つて居た。ところが其男は遂々《たうとう》或年の大晦日の晚方、同村日石(ヒイシ)と云ふ所の谷合で、黃金(キン)のヒに掘り當てた。その黃金の一塊(ヒトカタマリ)を笹の葉に包んで持つて來て、自分の破家(ブツカレエ)の形ばかりの床の間に供へた。するとその光が破戶《ぶつかれど》を透して戶外まで洩れて明るく輝いた。その人は今の遠野の新張(ニバリ)といふ所の人であつたが、それからは、小松殿と言はれる程の長者となつた。

[やぶちゃん注:「遠野の小友村」現在の遠野市街の南西の山間部、岩手県遠野市小友町(おともちょう:グーグル・マップ・データ航空写真)。

「ヒ」小学館「日本大百科全書」に、『鉱脈のこと。日本の近世から鉱山用語として使われ始め、露頭から鉱脈に沿って採掘する際』、「ひ追(お)ひ」又は「ひ延(の)べ」等と『称した。現在でも鉱脈を追って』掘り進む『坑道を』「ひ押(お)し坑道」と呼び、『広く使われている』とあった。

「黃金(キン)のヒに掘り當てた」の底本は「掘」は「堀」。ここは流石に前後から誤植と断じ、特異的に訂した。本篇では以下にも同じ誤植を訂したあるが、一々、注はしなかった。

「破戶」普通なら「やれど」であるが、前の「破家(ブツカレエ)」の佐々木の方言に合わせて仮に訓じておいた。]

 小松殿は金掘りになつて、多くの金掘りどもを賴んで每日每日其ヒを掘り傳つて行つた。一年掘つても二年掘つても思つたやうな金は無くて、世間からはまた元の芋掘殿になつたなアと言はれて愚《ぐ》にされて居た。けれども何と言はれてもかまはないで掘つて行くと、丁度全(マル)三年目のやはり大晦日の晚方に、ベココ(牛)の形をした親金(オヤガネ)に掘り當てた。小松殿は大喜びで、すぐに坑外に多勢の金掘りドを集めて大酒宴をして其の夜を明《あか》した。

[やぶちゃん注:「親金(オヤガネ)」古く、山師は、鉱山の鉱床の主要本体の核部を「親金」と呼んだようである。ネット上の「地質ニュース」の高島清氏の論文「金と銀」PDF)の23ページ右下方に(字空けは詰めるか、読点に代え、ピリオド・コンマは句読点に代えた)『金銀に関係のある歴史のほかに、金銀山の開発とか発見にまつわる数多くの物語りの中にまた興味のあるものが多い。伝説として、興味のあるのは〝おそとけ″の話である。現在の岩手県上閉伊郡上郷村付近、大峰鉱山[やぶちゃん注:グーグル・マップ・データ航空写真のここ。本篇の旧「小友村」とは盆地を隔てて東北十九キロメートルしか離れていない。]のある付近に、〝おそとき″と称する伝説がある。〝おそとけ″とは〝牛徳(おそとき)″が、なまったものと思われるが、慶長年間、あるいはそれより古く、この付近の仙人峠[やぶちゃん注:グーグル・マップ・データ航空写真のここ。大峰鉱山の東南東約三キロメートル直近。]付近の火石金山で』、(★☞!)『親金が牛の形をした金鉱が発見された』(★☜!)『という。そして、その金塊を引き出すのに、繩をつけて引出す「牛徳」という一正直者は、坑外からの神の呼声で、外に出て、命を助けられ、作業中の鉱夫75人は、巨大なこの金塊と共に埋まっているという』とあるのである。これは驚天動地で(「親金」を補説しようとして、とんでもない金脈を探し当ててしまった感じだ!!!)、以下の展開を見られれば判るが、以上の話は、本話の源泉にある「黄金の牛」伝承そのものルーツであることが判明するのである!

 明くれば元朝の目出度い日で、朝日の登るのと一緖に、改めて坑の入初めの祝ひを擧げた。そして黃金の牛の額の片角《かたづの》に錦の手綱を結び着けて、歌を歌つてみんなに曳かせると、その角がポキリと折れてしまつた。今度はその首に綱を結びつけて引張ると、親金の牛が二步(アク)三步(アク)動いたかと思つた時ドガリと坑《あな》が墜ちて、鑛夫(カネホリ)どもが七十五人死んでしまつた。

 其時炊事男にウソトキと謂ふ男があつた。正直者で、時刻を正しく朝飯夕飯などを呼ばるので、金掘りどもからはあれは融通の利かない男だ、ウソトキだと言はれて居た。家には盲の婆樣(老母)があつて、自分の食物や鍋底のコビ(こげ飯)などを貰つて持つて行つて母親を養つて居た。それぐらゐの孝行者だから色々な雜物などは石の上に並べて置いて鳥どもにやつた。鑛夫《くわうふ》どもからは常に愚者《おろかもの》あつかひにされて居た。

[やぶちゃん注:「ウソトキ」ここでの意味は不詳。先の高島清氏の論文では「おそとき」「おそとけ」とあり、「牛徳(おそとき)」の訛りとされるが、ここでの「ウソトキ」を上手く説明出来ない。「牛の徳」を卑称として「牛のように融通の利かない頑固で鈍重な奴」の意味だろうか? 判らぬ。岩手方言の「うそ」は「噓」であるが、これでは説明不能で、私は一瞬、鳥の「鷽(うそ)」、スズメ目アトリ科ウソ属ウソ Pyrrhula pyrrhula をイメージした。何故かと言えば、この鳥の「うそ」は古語の「うそ」で「口笛」を意味するからである。私はこの「炊事男」の「ウソトキ」は、食事時を正確に鉱夫らに伝えて「呼ば」わったとあるのを、『彼は坑道に入って「口笛」を吹いてそれを告げたのではなかったか?』と夢想したことによる。思いつきだが、結構、私は気に入っているので、ここに記しおくこととする。なお、最後の私の注で引用した佐々木の注が、これを実は解読しているので読まれたい。私の妄想は一蹴される。]

 其日の親金曳きに、一人でも多い方がよいからと謂ふので、このウソトキも坑中に連れ込まれて綱に取りついて居た。すると不意に坑口で、ウソトキ、ウソトキと呼ぶ聲がした。あれア誰か俺を呼ばつて居ると思つて、綱を放して坑口に駈出《かけだ》して外を見れば、誰も居なかつた。これは俺の空耳だべと思つて、また坑穴に入つて綱を引張つて居ると、またこそ、けたたましく、ウソトキッと呼ぶ聲がした。あれアまた呼ぶと思つて出て見たが、矢張り前の通りで誰も居なかつた。どうもおかしいと思ひながら復《また》坑中に入つてまた綱を引いて居た。すると今度は以前よりも高く、ウソトキッと呼ぶ聲がした。誰だッと思つて綱を放して駈出して坑口から片足の踵《かかと》の出るか出ぬ間に、ドチンと坑が墜ちた。斯《か》うして七十五人ある鑛夫の中にたつた一人ウソトキばかり助かつた。

  (この墜坑《ついこう》口碑は私の「東奧異聞」にその一端を發表したやうに、奧州の鑛山地帶には至る所にある譚で、さうして又話の内容も少しづゝ異つてゐる。こゝには數ある同話の中から昔話になつてゐる遠野の小松長者の譚をより出して見た。)

 (詳しくは私の東奧異聞の中の「黃金の牛」と謂ふ短篇に書いておいたが、あの本を出した後また續々と同じ口碑を方々から聽かして貰つて居る。)

[やぶちゃん注:最後の附記は底本では、最初の丸括弧附記が全体が二字さげポイント落ちで、二番目の頭だけは一字下げで次行は二字下げ(全体ポイント落ちは同じ)となっている。

「東奧異聞」佐々木が大正一五(一九二六)年三月に坂本書店の『閑話叢書』の一冊として刊行した東北地方の民譚の研究書である(研究書と書いたのは、他の殆んどの民譚集成書群は、あくまで、それら採集した民譚に紹介・報告の体(てい)を出ないのであるが、この書だけは民話の分類や内容考証にまで及んでいるからである。佐々木の指示したそれは、国立国会図書館デジタルコレクションの平凡社『世界教養全集』第二十一巻(一九六一年刊)のこちらの「黄金のウシの話」で視認出来る(新字新仮名)。また、「青空文庫」のこちらでも、同書底本で電子化されてある。佐々木はそこで前に述べたように、特異的な考証注を附しており、その中に「ウソトキ」の解読が示されてある。前後の注も含めて以下に示す。なお、「青空文庫」のものを加工データとして原底本の当該部と校合した(底本では、各注の頭の丸括弧数字のみが一字下げで、二行目以降は、全体が二字下げで全部ポイント落ちであるが、再現していない。地名のうち、読みに躓いたものは、検索可能だったものについては私が注で補った)。

   *

(1)盛岡地方にもこの口碑があるとみえて、同地の金山踊りの唄に左のようなものがあります。「金のウシ(ベココ)[やぶちゃん注:「ウシ」へのルビ。]の錦の手綱おらも曳きたい、ハアカラメテカラメテ、シッカリカラメテ、掘った手綱はうっかり放すな」というのや、また本話の小松長者の黄金のウシを曳くときに歌わせたのは、「金のウシこに錦の手綱、おらも曳きたい曳かせたい」といったと言います。

(2)ウソトキ、オソトキについては、これもあとで誰かの解釈でしょうが、この男はあまり正直者で、御飯をきちんと正確な時間にしか出さなかったので、鉱夫どもは逆に偽時[やぶちゃん注:「うそとき」。]だといって諷したとも言い、またこの男は時を知らす役目であったが、あまり正確に時間を守るのでみんなからそう逆諷[やぶちゃん注:「ぎゃくふう」事実とは反対に当てこすって言うこと。]されたとも言います。これはどこの金山の口碑でもこの助かり役の者をオソトキ、ウソトキということであることに注意を願います。ほかには女をもそう呼んでおります。すなわち陸前国気仙郡竹駒村玉山金山の炊事役は女でウソトキといったとなっております。また同郡唐丹(とうに)村、今手(いまで)山金鉱での口碑には三郎となっておりまして、やはり炊事係でありますが、これにはこの男が流し下に溜まる飯粒を克明に拾い集めておき、毎日それをカラスにやったと言い、墜坑のとき呼び出したのはたぶんそのカラスであったろうというような情合い談[やぶちゃん注:「じょうあいだん」。]もあります。同所の山谷の間に三郎墓(さぶはか)といって、この男の墓まで残っております。その他は青森県でも秋田県でも同様ウソトキで通っております。

(3)女であったというところは本文のほかに、前註の気仙郡玉山金山のウソトキなどでありますが、こちらは同郡広田村の及川与惣治氏の報告ですとオソイトという名まえになっております。また本文の上郷村左比内のオトタツ女なども、同郡釜石方面では男となってよそと同様にウソトキといわれているように、じつに区々[やぶちゃん注:「まちまち」。]であります。

(4)この口碑のある金山およびその跡について私の手帳に控えた一端を申しますと、

[やぶちゃん注:以下、底本ではリスト部分は全体が三字下げ。]

陸前国気仙郡竹駒村、玉山金山、ウソイト、ウソトキ  同郡唐丹村今手山金山、三郎  陸中国和賀郡田瀬村、黄金(こがね)沢、ウソトキ  稗貫郡湯本村字日影坂万人沢、ウソトキ  江刺郡米里村字古歌葉[やぶちゃん注:「よねざとむらあざこがよう」。]、千人沢、ウソトキ  上閉伊郡上郷村字左比内、千人沢、オトタツ  同郡同村仙人峠の長者洞[やぶちゃん注:「ちょうじゃほら」。]、ウソトキ  同郡土淵村字恩徳金山[やぶちゃん注:「おんどくきんざん」。]、ウソトキ  同郡栗橋村字青木金山、オソトキ  同郡甲子村字大橋日影沢(?)ウソトキ  同郡小友村日石[やぶちゃん注:「おともむらひいし」。]金山跡、オソトキ  紫波郡佐比内村[やぶちゃん注:「しわぐんさひないむら」。]銅ヶ沢金山、ウソトキ(?)  同郡彦部星山[やぶちゃん注:「ひこべほしやま」。]赤坂金山、ウソトキ(?)  陸奥岩木山麓百人沢、ウソトキ  羽後国鉱山地方某所、ウソトキなど親金が黄金のウシであることは、いずれも同様であります。

   *]

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