大手拓次譯詩集「異國の香」 野のチユーリツプ(ヒルダ・コンクリング)
[やぶちゃん注:本訳詩集は、大手拓次の没後七年の昭和一六(一九三一)年三月、親友で版画家であった逸見享の編纂により龍星閣から限定版(六百冊)として刊行されたものである。
底本は国立国会図書館デジタルコレクションの「国立国会図書館内/図書館・個人送信限定」のこちらのものを視認して電子化する。本文は原本に忠実に起こす。例えば、本書では一行フレーズの途中に句読点が打たれた場合、その後にほぼ一字分の空けがあるが、再現した。]
野のチユーリツプ コンクリング
鬼百合の葉のやうにまだらがあり、
まつくろい頸飾(くびかざ)りをつけたチユーリツプを
(そこにはみどりの覆ひをもつてゐる)
神樣はこしらへたのだ、
また、 神樣は動いてゆく寶石のやうな氷河をつくつた、
神樣は日にかがやく眞赤な雲のやうなチユーリツプをもつくつた。
けれど私にはわからないよ、
どうして、 それが花になつたり、
また大きな夢のやうな氷河になつたりするのか?
[やぶちゃん注:作者のついては、前回の私の注を参照されたい。本篇は、前回の詩篇と同じく、彼女の詩集「Shoes of the wind」の「Wild Tulip」である。以上の原著の当該部を参考にして原詩を引く。
*
WILD TULIP
Mottled like the tiger-lily leaf,
With black necklace clinging,
( Of course it has a green cloak I )
God has made a tulip.
He made the glacier like a moving jewel.
He made the tulip
Like a red cloud lighted by the sun.
I wonder how it feels to make a flower
Or a glacier like a great dream !
*]
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