佐々木喜善「聽耳草紙」 五番 尾張中納言
[やぶちゃん注:底本・凡例その他は初回を参照されたい。今回は底本はここから。]
五番 尾張中納言
美女の繪姿を見て、さう云ふ女を探して千日の旅をした男があつた。その繪姿が尾張の國のお城に一枚、生家に一枚、日本國中に一枚ある。其の男は或る日床屋に一枚あるのを見て、五十兩出して其れを求めた。
それから其の女を探し尋ねて日本國中を步いた。尋ね倦(アグ)んで山中に迷入《まよひい》つた。道を迷つて山中の孤(ヒトツ)屋にたどり着いた。其の家の門前に男禁ずと云ふ立札があつた。其の家には老婆が一人居た。其の家に泊つた。其の老婆の顏が繪姿の女の顏に似てゐたので譯を糺して訊くと、其の人の娘だと言つた。其の娘は今は尾張の國のお城の中に居ると言つた。
男は尾張の國のお城に忍び込んだ。外門《そともん》には番人が八人、三《さん》の門には赤鬼丸と云ふ犬が居てなかなか入れなかつた。また人間一人入れば一の花が二つ咲くと云ふ花園もあつた。
其の男は中納言になつた。(この間の内容は話者が忘れて居て、どうしても思ひ出せなかつた。)[やぶちゃん注:二字下げはママ。]
(大正十年十一月三日、村の犬松爺の話の中の一《いち》。)
[やぶちゃん注:この話、非常に興味深いのだが、中途部分の大事な転回点が失われているのは非常に惜しい。]
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