西播怪談實記 林田村農夫火熖を見し事 ミステリー・サークルの江戸版?
[やぶちゃん注:本書の書誌及び電子化注凡例は最初回の冒頭注を参照されたい。底本本冊標題はここ。本文はここから。【 】は二行割注。目録(ここから)の読みは総て採用した。挿絵は所持する二〇〇三年国書刊行会刊『近世怪異綺想文学大系』五「近世民間異聞怪談集成」にあるものをトリミングして適切と思われる箇所に挿入した。因みに、平面的に撮影されたパブリック・ドメインの画像には著作権は発生しないというのが、文化庁の公式見解である。]
○林田村農夫火熖(くはゑん)を見し事
享保年中の六月の事なりしに、揖東郡《いつとうのこほり》林田村の農夫、夜(よ)、水を曳《ひき》に行(ゆき)しに、道の側(そば)にて、火(ひ)、熱(もゆる)。
兩人(りやう《にん》)、私語(さゝやき)、そろそろ、近寄(ちかより)て見れば、細(こまか)なる虫(むし)、草の中より、
「むらむら」
と出《いで》て、立上(たちあかり)、又、下《くだる》事、俗にいふ、「あまこ」に似(に《た》)り。
又、少(すこし)、隔(へた)て見れば、いかにも、火、也。
能(よく)其所を見置(をい)て、翌朝、行《ゆき》て見るに、草むら、少、輪立(わ《だち》てあり。
尤(もとも)、草も、輸立の内は、勢(ゆき《ほひ》[やぶちゃん注:「ゆき」はママ。])、おとれり。
されば、墓(はか)ならでは、火熖、なきやうに、世の人、思へり。
右の所、「墓、あり。」といひ傳へもなく、何の子細も聞(きかす[やぶちゃん注:ダブりはママ。])ず。
自然(しぜん)と、かゝる所も有《ある》にや。
「見る人、怪(あやしむ)べからず。」
と、林田の人の物語の趣を書傳ふもの也。
[やぶちゃん注:ミステリー・サークルの江戸版か!?!
「享保年中」一七一六年から一七三六年まで。
「揖東郡林田村」姫路市林田町(はやしだちょう:グーグル・マップ・データ)。
「農夫」後に「兩人」と出るから、二人(或いはそれ以上)である。]
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