大手拓次譯詩集「異國の香」 謎(ポッドマン)
大手拓次譯詩集「異國の香」 謎(ポッドマン)
[やぶちゃん注:本訳詩集は、大手拓次の没後七年の昭和一六(一九三一)年三月、親友で版画家であった逸見享の編纂により龍星閣から限定版(六百冊)として刊行されたものである。
底本は国立国会図書館デジタルコレクションの「国立国会図書館内/図書館・個人送信限定」のこちらのものを視認して電子化する。本文は原本に忠実に起こす。例えば、本書では一行フレーズの途中に句読点が打たれた場合、その後にほぼ一字分の空けがあるが、再現した。]
謎 ポツドマン
私は水で身躰をぬらした、
わたしの前に、 もう一つ身躰を感じてゐる
いつか、 わたしは忘れるかも知れない、
胸と胸とのあひだの影を、
それは光りの明け方を暗くし、
そしてただ淫佚に、
星が星のなかに輝くとき
わたしの思ひから消えうせる。
お前の脣の微笑は言葉であるか。
お前の心のなかに何が書いてあるか。
わたしはお前の顔のなかに沈んだが
どうしても其底に達することが出來ない
[やぶちゃん注:作者不詳。識者の御教授を乞う。しかし、この詩、妙に惹かれる。
「淫佚」「いんいつ」で「淫逸」に同じ。淫(みだ)らな楽しみに耽(ふけ)り、怠けて遊ぶこと。]
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