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2023/03/22

「曾呂利物語」正規表現版 卷二 五 行の達したる僧には必ずしるしある事

 

[やぶちゃん注:本書の書誌及び電子化注の凡例は初回の冒頭注を見られたい。

 底本は国立国会図書館デジタルコレクションの『近代日本文學大系』第十三巻 「怪異小説集 全」(昭和二(一九二七)年国民図書刊)の「曾呂利物語」を視認するが、他に非常に状態がよく、画像も大きい早稲田大学図書館「古典総合データベース」の江戸末期の正本の後刷本をも参考にした。]

 

     五 行(ぎやう)の達したる僧には必ずしるしある事

 

 一所不住の僧、武藏國を修行しはべりしが、をりふし、道に行き暮れて、泊るべき宿(やど)もなし、野原の露に、袖を片敷きて、明しける。

 をりしも、秋のなかば、月の夜すがら、まどろむひまもなかりけるに、笛の音、幽(かすか)に聞えけり。

『不思議や。此の邊には、人里も、なかりつるに、いかなる物やらん。』

と思ひけるが、次第に近づきて、程なく、僧のあたりへ來(く)るを見れば、年の程、二八(にはち)ばかりなる少人(せうじん)の、其のさま、優なるよそほひなり。

 やんごとなき姿を見るに付けても、

『疑ひなき、變化の物なるべし。』

と思ひをる。彼の少人、いひけるは、

「お僧は、何(なに)とて、かかる野原に、たゞ一人、ましますぞ。」

と、有りければ、僧、答へて曰く、

「かかる、里離れなる所とも存ぜず、行きくれて候。御身は、いかなる人にてわたらせ給ふぞ。」

と、いうて、おそろげなる有樣なり。此のけしきを見て、

「我をば、變化(へんげ)の物とや、おぼしめすらん。さやうの物にては、候はず、月夜になれば、笛を吹きありき、心を慰むる者なり。さいはひに、童(わらは)が宿にともなひ奉らん。いざ、給へ。」

と有りければ、僧、おぼつかなく思ひながら、

『變化の物ならば、こゝに有りても、よも安穩(あんをん)にては、おかじ。』

と思ひ、

「御心ざし、有り難う侍る。」

とて、則ち、連れたちて、行きにけり。

 とある里に至りぬれば、ゆゝしき一つの、城郭、有り、彼(か)の内に誘(いざな)ひ入りぬ。

 宮殿・樓閣を通り、奧に小さく設(しつら)ひたる座敷、有り。

 少人、いひけるは、

「此處(こゝ)に、御泊りあれ。旅の疲れにや、おはすらん。」

とて、障子を、あけられ、火を持ちて出で、僧に與へ、 茶など、參らせて、心、殊にもてなし、

「我は此の障子の內に寢(い)ね參らせ候。御用の事候はば、我等が臥(ふ)しどへ、音なひ給へ。」

とて、入りぬ。

 僧は、

『かかる不思議なる所へも、きつる物かな。』

と、まどろむ暇(ひま)もなく、光明眞言などを唱へ、心を澄ましけるが、やうやう、八聲(やこゑ)の鳥も告げわたり、鐘の音(ね)も、物すごくこそ、聞えけれ。

 しかる所に、人、あまた、來りて、

「こゝに不思議なる坊主有り。何者なれば、かやうの奧まで、忍び入りけるぞや。たゞ事にあらず。いかさま、變化の物なるべし。蟇目(ひきめ)にて射よ。さらずば、鼻を、ふすべよ。」

とて、まづ、諫めんとす。

 僧、

「ことわりを申さん程の、いとまを、賜はれ。」

とて、宵のありさま、こまごまと語りけり。

 咎めつる者ども、これを聞いて、思ひの外に、うちしめり、淚をながす人も有り。

 ことを、委しく尋ぬるに、其の城主の若君、其の年の春の比(ころ)、身まかり給ひけるが、その亡靈にてぞおはしける。

 常に、笛を手なれるに、佛前に、漢竹(かんちく)の横笛を置きけるなり。

 茶の具、靈供を供へおきはべるを、僧には、與へ給ふらん。

「お僧、貴(たつと)う思はれける故なれば、しばらく、爰に逗留し給へ。」

とて、色々の追善を營み、其の後(のち)、僧は歸り給ひけり。

[やぶちゃん注:本話は、個人的には好みである。但し、ややあっさりとしている感じはする。これを換骨奪胎して優れて映像的に、しかも設定をリアルに細敍して見事にインスパイアしたものが、「伽婢子卷之八 幽靈出て僧にまみゆ」であり、そちらに軍配を挙げたいと思う。なお、「諸國百物語卷之一 十 下野の國にて修行者亡靈にあひし事」は、ほぼ転用。

「八聲(やこゑ)の鳥」「八」は多いことを示し、夜の明け方にしばしば鳴く鷄を指す。]

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