大手拓次譯詩集「異國の香」 若い女のやうな春(ローラ・ベンネット)
[やぶちゃん注:本訳詩集は、大手拓次の没後七年の昭和一六(一九三一)年三月、親友で版画家であった逸見享の編纂により龍星閣から限定版(六百冊)として刊行されたものである。
底本は国立国会図書館デジタルコレクションの「国立国会図書館内/図書館・個人送信限定」のこちらのものを視認して電子化する。本文は原本に忠実に起こす。例えば、本書では一行フレーズの途中に句読点が打たれた場合、その後にほぼ一字分の空けがあるが、再現した。]
若い女のやうな春 ベンネツト
おほきく眼をひらいた街のかなたに
子を產んだ若い女のやうな春が
ためらひがちな足どりでやつてきた。
鋼(はがね)のやうな冷(つめ)たい霙がふり、
さけたみどりの莖のやうに吹きあれた風も
もはや たえだえになり、
その眼のかげにかくれてゐる
ヒヤシンス色の夜のとばりも
菫と薔薇とのおぼろのなかに消えうせる。
[やぶちゃん注:Laura Bennettで探してみたが、人物も詩篇も見出せなかった。識者の御教授を乞う。]
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