大手拓次 「丁字の花」
[やぶちゃん注:本電子化注は、初回の冒頭に示した通りで、岩波文庫の原子朗編「大手拓次詩集」(一九九一年刊)からチョイスし、概ね漢字を正字化して、正規表現に近づけて電子化注したものである。]
丁字の花
小手招きする
あまにがい丁字の花はこぼれ、
かへりゆく人のうしろ姿に
憎み多い追懷を投げかける。
小手招きする
あまにがい丁字の花はこぼれ、
かへりゆく人の濃い影に
命の香をとこしなへにふりそそぐ。
[やぶちゃん注:「丁字」「ちやうじ(ちょうじ)」はクローブ(Clove)のこと。ここはバラ亜綱フトモモ目フトモモ科フトモモ属チョウジノキ Syzygium aromaticum のこと。一般に知られた加工材のそれは、本種の蕾を乾燥したものを指し、漢方薬で芳香健胃剤として用いる生薬の一つを指し、肉料理等にもよく使用される香料。]