大手拓次 「繪すがた」
[やぶちゃん注:本電子化注は、初回の冒頭に示した通りで、岩波文庫の原子朗編「大手拓次詩集」(一九九一年刊)からチョイスし、概ね漢字を正字化して、正規表現に近づけて電子化注したものである。]
繪すがた
白い寶玉の手に掘られた土のなかに
みどり色の光の笑ふ部屋がある。
つつましい女の情はうつうつとし、
やはらかに圍んだセロの塗壁は
春の宵のやうに歌をうたつてる。
緋綸子のなよなよしい
戀のきものが
肌の息にうかんでくる。
ああ、まどかなまどかな
愛の生ひたち。
[やぶちゃん注:創作年は初回を参照されたい。
「セロの塗壁」「セロ」は「春の宵のやうに歌をうたつてる」とあるところからは、楽器のチェロか。「チェロの塗壁」がよく説明は出来ないが、この詩全体が幻想の部屋であってみれば、チェロで作られた塗り壁という非現実的なシュールなイメージとして非合理な対象の接合・ぶつかり合いを耽美的に味わってでもいるのであろうか。考えて見れば、「戀のきもの」も同様と言えよう。
「緋綸子」「ひりんず」。緋色の綸子。「綸子」は既出既注。]

