大手拓次 「水の上にをどる女」
[やぶちゃん注:本電子化注は、初回の冒頭に示した通りで、岩波文庫の原子朗編「大手拓次詩集」(一九九一年刊)からチョイスし、概ね漢字を正字化して、正規表現に近づけて電子化注したものである。
以下は、底本の編年体パートの『『藍色の蟇』時代Ⅰ(大正前期)』に載るもので、同パートについては、先のこちらの冒頭注を見られたい。]
水の上にをどる女
水の上にをどる女よ。
秋はさみしい裏葉色(うらばいろ)の撫肩(なでがた)に
心をもてあそぶ放埒者よ。
自然はおとろへた思想の吹雪をちらし、
お前達の長い垂髮を飾る。
水の上にをどる女よ。
朽葉色の叔母さんが
絲のやうに息をついて
お前達のなりゆきを懸念する。
悲しい悲しい色事の上手なお前達。
[やぶちゃん注:「裏葉色」木の葉や草の葉裏のように、くすんだ薄緑色。特に葛(くず)の葉の葉裏に因んだ色ともされるのがイメージとしてはよく示す色である。
「垂髮」の「垂」については、正字体に「埀」があるが、詩集「藍色の蟇」の「象よ步め」に使用されているのは「垂」であったので、よかった。この「埀」の字は実は私には激しい生理的嫌悪感を感じさせる、特異点の厭な漢字だからである。
「朽葉色」落ち葉や樹木の葉が枯れたような、くすんだ赤みがかった黄色。
「絲」は底本では「糸」であるが、詩集「藍色の蟇」では「絲」の字体だけが複数箇所で使用されていることを鑑みてこれで示した。]