佐々木喜善「聽耳草紙」 三一番 臼掘と舟掘
[やぶちゃん注:底本・凡例その他は初回を参照されたい。今回は底本では、ここから。標題は「うすほりとふねほり」と訓じておく。]
三一番 臼掘と舟掘
或山で臼掘りが臼を掘つて居ると、其所へ鬼が來て、臼掘り臼掘り、お前を取つて食ふぞと言つた。臼掘りは怖(オツカナ)くなつて、逃げて山を越えて行くと、其所で舟掘りが舟を掘つてゐた、それで
舟掘り舟掘り、俺は今鬼に追ツかけられて逃げて來たのだが、何所《どこ》かに匿してケロと賴むだ、舟掘りはそんだら其の舟の下にでも入つて匿れて居ろと言つた。臼掘りが舟の下に入つて匿れてゐると、其所へ鬼がノチノチと駈けて來て、舟掘り舟掘り、此所サ臼掘りは來なかつたかと言つた。そんな者は來なかつたと言ふと、鬼は匿すな、匿せばお前から先きに取つて食ふぞと言つた…
(斷片である話。栗川久雄氏が岩手縣
下閉伊郡安家《あつか》村字元村で採
集したもの、其の後此話の元形を知り
たくて、安家及び岩泉附近を探訪した
けれども遂に知ることができなかつた。)
[やぶちゃん注:「舟掘り」は前話の「船矧」(ふなはぎ)と異なり、それ以前の原始的な刳(く)り船(丸木舟)を一木から彫り出す職人を指していよう。
「岩手縣下閉伊郡安家村字元村」「ひなたGPS」のこちらで確認出来る。現在も岩手県下閉伊郡岩泉町(いわいずみちょう)安家(あっか)には「元村」の字名が残っている。]