大手拓次 「腐つた月光」
[やぶちゃん注:本電子化注は、初回の冒頭に示した通りで、岩波文庫の原子朗編「大手拓次詩集」(一九九一年刊)からチョイスし、概ね漢字を正字化して、正規表現に近づけて電子化注したものである。
以下は、底本の編年体パートの『『藍色の蟇』以後(昭和期)』に載るもので、底本の原氏の「解説」によれば、大正一五・昭和元(一九二六)年から昭和八(一九三三)年までの、数えで『拓次三九歳から死の前年、すなわち四六歳までの作品、四九四篇中の五六篇』を選ばれたものとある。そこから原則(最後に例外有り)、詩集「藍色の蟇」に含まれていないものを選んだ。この時期については、本パートの初回の私の冒頭注を参照されたい。]
腐つた月光
くさつた月のひかりだ
魚(うを)が
一疋 一疋 一疋 一疋 一疋 一疋 一疋 一疋 一疋
靑錆色(あをさびいろ)にくさつた月のひかりだ
魚が
一疋 一疋 一疋
一疋 一疋 一疋 一疋 一疋 一疋
魚が つながつてゐる
一疋 一疋 一疋 一疋 一疋
泥のやうにくさつた月の光の泡だ
魚が ぴんとはねる
一疋 一疋 一疋 一疋 一疋 一疋
しわだらけな月の光だ!