大手拓次 「凋落の祈り」
[やぶちゃん注:本電子化注は、初回の冒頭に示した通りで、岩波文庫の原子朗編「大手拓次詩集」(一九九一年刊)からチョイスし、概ね漢字を正字化して、正規表現に近づけて電子化注したものである。]
凋落の祈り
凋落は
お前の足元にひざまづき
不思議の奇蹟を祈つてる。
お前の足元にひざまづき
みなし兒の胸にほころびる
幸ひの絲卷をいのつてる。
凋落はひざまづき
平和と眠りとの
夜のかけものを祈つてる。
美裝した
晝の凋落は
坦坦(たんたん)とした路をしづかにあゆんでる。
[やぶちゃん注:創作年は初回を参照されたい。
・第一連三行目「奇蹟」は底本では「奇跡」。私は聖的なそれを言う場合、断然、「奇蹟」であるべきであるという拘りを持っている。因みに、詩集「藍色の蟇」(サイト横書版。以下同前)では三篇で本表記を用いているのに反し、「跡」は一箇所でしか使用していない。
・第二連三行目「絲卷」は底本では「糸巻」。詩集「藍色の蟇」では十六箇所で「絲」を用いているのに反し、「糸」は一箇所でしか使用していない。]