大手拓次 「轉生の歌」
[やぶちゃん注:本電子化注は、初回の冒頭に示した通りで、岩波文庫の原子朗編「大手拓次詩集」(一九九一年刊)からチョイスし、概ね漢字を正字化して、正規表現に近づけて電子化注したものである。
以下は、底本の編年体パートの『『藍色の蟇』時代Ⅰ(大正前期)』に載るもので、同パートについては、先のこちらの冒頭注を見られたい。]
轉生の歌
亡びを示すなめらかな鳥のさへづり、
茶ばんだ水色のこけらは遠方の、
芽をふくむ樂しい魚苗(うをなへ)の肌によりつどひ、
すずしい銀のひびきをもらす。
よろこびはひらけ、消滅のさしひく忍び音(ね)は、
おどろきを生む花しべのあたりに香爐の霧をふく。
[やぶちゃん注:「魚苗(うをなへ)」「魚の子」。魚苗(ぎよべう)。幼魚。この一行、違和感はない。則ち、「茶ばんだ水色のこけ」(蘚/苔)「ら」(等)は、「遠方の」(蘚/苔)の「芽」(幼魚の鱗の間に早くも忍び込んだ「こけ」等が萌芽しているのである)を既に啣(「ふく」)「む」「樂し」さうなその幼魚と、顕微鏡的にクロース・アップされるその「こけ」らの芽生えの歓喜に満ちている幼魚の「肌によりつどひ」「すずしい銀のひびきをもらす」のである。幻想の博物学者の天馬空を翔(ゆ)く如き自在なモンタージュが素晴らしい!]