大手拓次 「密獵者」
[やぶちゃん注:本電子化注は、初回の冒頭に示した通りで、岩波文庫の原子朗編「大手拓次詩集」(一九九一年刊)からチョイスし、概ね漢字を正字化して、正規表現に近づけて電子化注したものである。
以下は、底本の編年体パートの『『藍色の蟇』時代Ⅰ(大正前期)』に載るもので、同パートについては、先のこちらの冒頭注を見られたい。]
密 獵 者
瓔珞(やうらく)の珠をおとすひよわなたそがれに。
かろやかに打つ鷓鴣(しやこ)の羽ばたき、
眼のおほきい密獵者の足はうゑたる戀にをののくごとく、
水のながれをなして踊躍(ゆやく)の花をとびちらす。
手のほそい、眼のおほきい二人づれの密獵者よ、
見つからないやうにお前の獲物を獵(か)りとれ。
[やぶちゃん注:「瓔珞」珠玉や貴金属を編んで、頭・首・胸に掛ける装身具。古く仏・菩薩などの身を飾るものとして用いられ、寺院内でも天蓋などの装飾に用いる。元来は古代インドの上流階級が身につけた装飾品であった。
「鷓鴣」本邦に於いて「シャコ」という呼称は、狭義にはキジ科Phasianidaeシャコ属Francolinus に属する鳥を言い、広義にはキジ科の中のウズラ( Coturnix 属)よりも大きく、キジ( Phasianus 属)よりも小さい鳥類をも指す。但し、拓次が愛したフランス文学に登場するそれは、例えば、私の偏愛するジュール・ルナール(Jules Renard)の小説「にんじん」(“Poil de carotte”一八九四年刊)に出る「鷓鴣」は“perdreau”(ペルドロー)で、これは、一般的にフランスの鳥料理の中でも、ヤマウズラ Perdix 属、及び、その類縁種の雛を指す語である(親鳥の場合は “perdrix” (ペルドリ))。食材としては、“grise”(グリース。「灰色」という意味)と呼ぶヤマウズラ属ヨーロッパヤマウズラ Perdix perdix と、“rouge”(ルージュ。「赤」)と呼ぶアカアシイワシャコ Alectoris rufa が挙げられる。拓次がここで「鷓鴣」を使うった際には、まず、後者の由来の「鷓鴣」のイメージによって使われものとは思われる。しかし、到底、拓次がヨーロッパにしか棲息しない最後の二種などを知っていたわけもなく、また、真正の「シャコ」類で「シャコ」を和名に持ち、しかも日本の棲息する種は、調べた限り、いないはずである。従って、拓次のイメージのそれは、ウズラの子どものようなイメージであろうと推察するものである。以上の一部は私の古いサイト版「にんじん ジュウル・ルナアル作 岸田国士訳 挿絵 フェリックス・ヴァロトン (注:やぶちゃん copyright 2008 Yabtyan)」の「鷓鴣」の私の注を元にした。]