大手拓次 「お前は」
[やぶちゃん注:本電子化注は、初回の冒頭に示した通りで、岩波文庫の原子朗編「大手拓次詩集」(一九九一年刊)からチョイスし、概ね漢字を正字化して、正規表現に近づけて電子化注したものである。]
お 前 は
お前は笛を吹きながら死んでゐる、
野のあをい綸子の上に。
お前のすてて行つた紅い薔薇のなきがらは、
今でも今でも、わたしの窓かけのなかにねむつてる。
お前の幽靈のやうな腕に抱かれてゐて、
そのふつくらとした匂ひの脉にききとれたい。
けれどお前は、とほくの方へ、
古い、年をとつた
馬車のラツパの音(ね)のやうに、
とほくの方へ。
[やぶちゃん注:創作年は初回を参照されたい。個人的には妙に惹かれる一篇である。
「綸子」「りんず」。既出既注。
「脉」は「みやく」(みゃく)で「脈」の異体字。底本もこの字を用いている。]