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2023/04/24

大手拓次 「Jasmin Whiteの香料」

 

[やぶちゃん注:本電子化注は、初回の冒頭に示した通りで、岩波文庫の原子朗編「大手拓次詩集」(一九九一年刊)からチョイスし、概ね漢字を正字化して、正規表現に近づけて電子化注したものである。

 以下は、底本の編年体パートの『『藍色の蟇』時代Ⅱ(大正後期)』に載るもので、底本の原氏の「解説」によれば、大正七(一九一八)年から大正一五(一九二六)年までの数えで『拓次三一歳から三九歳の作品、三四一篇中の四七篇』を選ばれたものとある。そこから詩集「藍色の蟇」に含まれていないものを選んだ。同時期の拓次の様子は、先の回の冒頭の私注を参照されたい。]

 

 Jasmin Whiteの香料

 

わたしは今ゆめからさめて、

黃色くみのる果物の樹をよぢのぼる。

あを空の微笑と

蜂のうなりとがわたしをひつそりとかこむ。

きいろいくだものや、

あかむらさきのくだものや、

あをむらさきのくだものや、

めいめいが息をとめたやうにひつそりと、

おもくぽつくりとみのつてゐる。

そのたわわにみのる果物のなかに、

みづのやうにすんだ眼をしてわたしは過去のゆめをさます。

 

[やぶちゃん注:「Jasmin White広義には、シソ目モクセイ科 Jasmineae 連ソケイ(素馨)属 Jasminum のジャスミン(アジアからアフリカの熱帯及び亜熱帯地方が原産で、本邦には自生しない)の内、白色の花を咲かせるものを指すが、狭義に英語で「White Jasmine」と呼ぶ種は、蔓性常緑性灌木のソケイ属ハゴロモジャスミン Jasminum polyanthum を指す。ウィキの「ハゴロモジャスミン」によれば、同種は中国原産で、『オーストラリアとニュージーランドに帰化し、外来種となって』おり、『アメリカやヨーロッパで観賞用植物として栽培されている』とあって、『花は直径約』二センチメートルで『香りがよい、五芒星のような薄いピンクや白い花を咲かす。晩冬から早春にかけて』、『赤やピンク色の花のつぼみを豊富に生成する』とある。ここはしかし、前者の広義のそれか、以下に示すソケイ Jasminum grandiflorum が相応しいようだ。ウィキの「ジャスミン」(ソケイ属の記載)によれば、『ほとんどの種は白色または黄色の花を咲かせ』、『いくつかの種では花は強い芳香を持ち、香水やジャスミン茶(茉莉花茶)の原料として使用され』、『主な香気成分は、ジャスモン酸メチル』methyl jasmonate『である』とあり、『ほとんどの種が観賞用として栽培されている。栽培の歴史は古く、古代エジプトですでに行われていたといわれている。ソケイ』(ソケイ属ソケイ Jasminum grandiflorum )『とマツリカ』(ソケイ属マツリカ(茉莉花) Jasminum sambac)『の』二『種については、香料原料として大規模な栽培が行われている』。属としての『ソケイは』十六『世紀中ごろからフランスのグラースで香料原料として大規模に栽培されるようになった。現在では、主な産地はエジプトやモロッコ、インドなどに移っている。花は夜間に開くので、開ききった明け方に人手により摘み取られ、有機溶媒による抽出が行われる。抽出後、溶媒を除去すると「コンクリート」と呼ばれるワックス状の芳香を持つ固体が得られる。これをエタノールで再度抽出し、エタノールを除去したものが、香料として使用される「ジャスミン・アブソリュート」である。花約』七百『キログラムからジャスミン・アブソリュート』(Jasmin Absolute:室温でジャスミンの香りを溶媒に移し、抽出した香料で、高温の水蒸気蒸留で抽出する精油と区別される)一『キログラムが得られる。ジャスミン・アブソリュートを使った香水としては、ジャン・パトゥ』(Jean Patou)『社の「Joy」が著名である』。但し、『化粧品・医学部外品成分の香料の中で、ジャスミン・アブソリュートはアレルゲン陽性率が高く、注意を要する』とある。『ジャスミンの花にはいくつかの香気成分が含まれているが、その中でもジャスミンの香りを特徴づける独特な香気成分であるcis-ジャスモンは、未だ工業的生産法は確立されておらず、自然の花から抽出し精製するしか方法がないため、cis-ジャスモンを主原料とした香料は非常に高価である。それと比べ、工業的生産法が確立されているジャスモン酸メチル系の香料は安価で入手可能で、香水やアロマオイルなどとして一般に広く出回っている』。十六『世紀中国の官能小説』「金瓶梅」『には、女がジャスミンの蕊(めしべ、おしべ)とバターとおしろいを混ぜて』、『体中に塗り付け』、『男を楽しませる場面が登場する』とあった。なお、属中文名の素馨(花)については、ウィキの「ソケイ」(ソケイ属の記載)によれば、『中国、五代十国時代の劉隠』『の侍女に』、『素馨という名の少女がいて、死んだ彼女を葬った場所に素馨の花が咲き、いつまでも香りがあったという伝説が由来という説』と、『花の色が白く(素)、良い香り(馨)がする花という意を語源とする説』が挙げられてある。]

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