大手拓次 「果物の誕生」
[やぶちゃん注:本電子化注は、初回の冒頭に示した通りで、岩波文庫の原子朗編「大手拓次詩集」(一九九一年刊)からチョイスし、概ね漢字を正字化して、正規表現に近づけて電子化注したものである。]
果 物 の 誕 生
こゑをのんでは
日あたりに、
たよりない懶惰(らんだ)を流し、
こゑをのんでは
ふかふかと
りんずのきれの夢をだく。
まぶたのなかには
赤いをどり、
濃い紫の舞姿(まひすがた)。
熟れてゆく
うるしのやうな毛のにほひ、
象牙のやうな頰のにほひ。
[やぶちゃん注:創作年は初回を参照されたい。なお、最終行の「頰」は、底本も、この字体である。
「りんず」「綸子」。白絹の紋織物。経糸(たていと)・緯糸(よこいと)双方に無撚(むよ)りの生糸を使用し、表朱子(おもてしゅす)と裏朱子による、昼夜組織によって柄模様をつくる。石川県小松地方が主産地であり、主として白生地(しろきじ)のまま、女性礼服の白無垢や、裏地に使われる。また、強撚糸(きょうねんし)を使った綸子縮緬(りんずちりめん)もある(サイト「コトバンク」の小学館「日本大百科全書」に拠った。当該ページに「綸子の組織図」の図がある)。]

