大手拓次 「砂人形」
[やぶちゃん注:本電子化注は、初回の冒頭に示した通りで、岩波文庫の原子朗編「大手拓次詩集」(一九九一年刊)からチョイスし、概ね漢字を正字化して、正規表現に近づけて電子化注したものである。
以下は、底本の編年体パートの『『藍色の蟇』時代Ⅰ(大正前期)』に載るもので、同パートについては、先のこちらの冒頭注を見られたい。]
砂 人 形
溫室のなかに茶色の刺があるやうに思はれる、
お前さんは、水すましの影のやうに淺い池の日和に浮かんでゐる。
お前さんはほんとに瓢逸な浮かれとんぼ。
お前さんは壁にこつそり這ひよるかたつむり。
お前さんはギターを持つた印度乞食の隱れ笑ひ。
お前さんは浴槽(ゆぶね)にねむる露西亞女の力わざ。
柴笛を吹いて眞黃色(まつきいろ)な木陰をゆくのは
お前さんの影繪だ。
いつまでもいつまでもぶらぶらと遊んでゐたいお前さんの魂の影繪だ。
お前さんは流れるままに落葉の船にのる砂人形だ。