大手拓次 「華奢な祕密」
[やぶちゃん注:私は、既に大手拓次の詩集の電子化オリジナル注附として、
「藍色の蟇」を詩集原本準拠として、サイトHTML横書版及び縦書版(二〇一四年一月二十七日公開)
及び
ブログ・カテゴリ『大手拓次詩集「藍色の蟇」【完】」』で分割版(二〇一三年十一月四日完遂)
で終わっており、また、ブログ・カテゴリ「大手拓次」にて、
『大手拓次詩畫集「蛇の花嫁」』
と、
『大手拓次譯詩集「異國の香」』
を分割版で電子化注を終わり、別に、
「蛇の花嫁」(正規表現PDF縦書ルビ・オリジナル注附一括版1.9MB・昨年二月十三日公開)
と、
大手拓次譯詩集「異國の香」オリジナル電子化注《PDF一括縦書版・2.78MB》
及び、注の一部で示した原詩を読み易くするために、
大手拓次譯詩集「異國の香」オリジナル電子化注《PDF一括横書版・2.98MB》
を本年四月七日に公開している。
さても、現在、国立国会図書館デジタルコレクションで視認出来る、以上の詩集に含まれない大手拓次の有意にソリッドな詩群は見当たらない。
されば、これより、ここで、岩波文庫の原子朗編「大手拓次詩集」(一九九一年刊)の中で、以上の詩集に含まれていない詩篇を同書の基本、編年体で並んでいる(但し、最後の「訳詩篇」パートのみは例外。そこに到達した際には改めて注記する)それを順に選び、漢字を恣意的に概ね正字化することで(幸いにして、同書は本文は勿論、ルビも歴史的仮名遣を使用している。但し、原氏によれば、『仮名づかいはルビをふくめて旧仮名づかいのままとした。なお、拓次は漢字に必要以上にルビをつける習慣があるが、本文庫では誤読されるおそれがないと思われるルビは、すっきりさせるために多くをのぞいた。逆に拓次はつけていないが、難読、誤読のおそれがあると思われる漢字には、最小限、編者がルビをうけた(例、小径(こみち)、容子(やうす)、等、旧仮名づかいで)』とある。因みに、「容子」は「樣子」の当て字であるから「やうす」で正しいのである)、推定される正規表現に近づけつつ(原氏は『作品中の漢字は新字体のあるものはそれを採用し』たとある)、ゆっくらと電子化注してゆきたい。但し、一つだけ、言っておくと、「間」という字が、詩集「藍色の蟇」では、「閒」となっているのだが、私は個人的生理的に「閒」の字体が好きではないため、それは使用しなかった。私は拓次の自筆原稿を見たことがないので、それが正しいか、誤っているかは、判らないことを言い添えておく。何時か、原詩稿を見ることが叶うように念ずるばかりである。]
華奢(きやしや)な祕密
いつとなく
人に知られてまたかくれ、
ももいろの拔羽のやうにものかなしい。
けれどさうして藍色のやみをゆけば、
ところどころよりお前の身をとりかこむ
祕密の顏のあでやかさに
木の葉のやうにはらはらと
うわべを飾るあらい苦勞は
ちつて仕舞ふ。
その時にお前の内は祕密の家。
うすももいろに、
あゐいろに、
鳩の胸毛のやうにふはふはとして
たよりない木立のなかに迷ふだらう。
[やぶちゃん注:原氏の解説によれば、本篇を冒頭に配した「初期詩篇」(明治期)は、選択対象を拓次二十歳から二十五歳の間に書かれた作品二百二十九篇から二十篇を選んだ旨の記載があり(「解説」の前に配された原氏による詳細な大手拓次の「年譜」は数え年で年齢が記されているから、この年齢もそれである)これも、但し、続いて、『完成度という選択基準から、おのずから、選ばれたのは右の時期のおわりの二年間の作となった』とあることから、本篇は間違いなく、明治四四(一九一一)年の作品ということになる。当時、拓次は、同年九月に早稲田大学文学部英文科三年に進級している(彼は一年次と二年次の進級の際に成績不良で彼は二度留年している)。原氏の当該年の記載には、『口語詩作旺盛になる。ようやく自然主義の影響からぬけ出て、象徴主義への芸術的自覚が深まる。象徴小説を意図する』一方、『永井荷風の文学に強い刺激をうける』とあった。
標題のルビは五月蠅くなるので、上付きで附した。]