大手拓次 「動物自殺俱樂部」
大手拓次 「動物自殺俱樂部」
[やぶちゃん注:本電子化注は、初回の冒頭に示した通りで、岩波文庫の原子朗編「大手拓次詩集」(一九九一年刊)からチョイスし、概ね漢字を正字化して、正規表現に近づけて電子化注したものである。
以下は、底本の編年体パートの『『藍色の蟇』以後(昭和期)』に載るもので、底本の原氏の「解説」によれば、大正一五・昭和元(一九二六)年から昭和八(一九三三)年までの、数えで『拓次三九歳から死の前年、すなわち四六歳までの作品、四九四篇中の五六篇』を選ばれたものとある。そこから原則(最後に例外有り)、詩集「藍色の蟇」に含まれていないものを選んだ。この時期については、本パートの初回の私の冒頭注を参照されたい。]
動物自殺俱樂部
この頃
まいばんのやうにおれの耳に映(うつ)つてくるのは
なまなましい はてしない光景だ。
猿はくびをくくつて死に、
蛇はからみあつたまま泥に沈み、
馬は足を折つて眼をふさいだ。
犬は舌をだして息がたえた。
蛙はくさむらで姿を失ひ、
とかげは石の下に生きながら乾いてしまつた。
象は太陽の槍に心臟をやられるし、
狐は花の毒氣にあてられた。
狼は共喰(ともぐひ)をしてくたばつた。
蝙蝠は煙突のなかにとびこんだ。
鴉(からす)は荊棘(いばら)のなかにとびこんだ。
なめくぢは竹の葉のくされのなかにすべりおちた。
三角形の大きな鉈(なた)で
くびをたたつきられる牛だ。