大手拓次 「くさむらよ!」
[やぶちゃん注:本電子化注は、初回の冒頭に示した通りで、岩波文庫の原子朗編「大手拓次詩集」(一九九一年刊)からチョイスし、概ね漢字を正字化して、正規表現に近づけて電子化注したものである。
以下は、底本の編年体パートの『『藍色の蟇』時代Ⅰ(大正前期)』に載るもので、同パートについては、先のこちらの冒頭注を見られたい。]
くさむらよ!
白い指をつたはつて、
にほひ深い情趣のなかに縫ひこまれる
さらさらとして、くすぐつたい少女の髮の毛ょ、
わたしの指の腹を撫でてうごき、
わたしの指の背と爪とをさすつてすぎゆく、
やはらかい、そして永劫の粗野をふくんでゐる感じやすい髮のくさむらょ、
その髮のひとすぢの觸れるごとに、
からだをながれる夕暮の心は
とぼとぼと木(こ)の閒(ま)がくれに顏をあかめつつ步みはじめる。
[やぶちゃん注:「閒」は詩集「藍色の蟇」での用字に従った。]
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