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2023/05/24

佐々木喜善「聽耳草紙」 八六番 兎の仇討

 

[やぶちゃん注:底本・凡例その他は初回を参照されたい。今回は底本では、ここから。長い。「仇討」は私は「かたきうち」と訓じておく。]

 

      八六番 兎 の 仇 討

 

 爺樣と婆樣があつた。爺樣が畑へ行つて豆の種を下《おろ》しながら、

   一粒蒔けば千粒ウ

   二粒蒔けば二千粒ウ

 と唄つて蒔いてゐると、狸が出て來て木の切株に腰をかけてそれを見て居ながら、

   一粒蒔けア一粒よ

   二粒蒔けア二粒さ

   北風吹いて元(モト)消(ケ)ベア

 とひやかした。爺樣はゴセを燒いて[やぶちゃん注:怒って。]、この野郞と追(ボ)ウと、狸はサツサと山さ逃げて行つた。その次ぎの日も狸が來て爺樣の豆蒔きをひやかして、追はれればサツサと山さ逃げて行く。そこで三日目には爺樣は狸がいつも來て腰かける木の切株に黐(モチ)を塗つておいて、知らん顏をして、いつもの通り、

   ハア一粒蒔けば千粒ウ

   二粒蒔いたら二千粒ウ

 と唄ひながら種子《たね》を蒔いてゐた。するとまた狸が出て來て、その木の切株に腰をかけて、うそうそ笑ひをしながら、[やぶちゃん注:「うそうそ笑ひ」「間の抜けた笑い」の意であろう。]

   ハア一粒蒔けば一粒よ

   二粒蒔いたら二粒さ

   北風ア吹いて元なしだア

 とひやかし初めた。それでも爺樣は取合はないで、

   三粒蒔けば三千粒ウ

   五粒蒔いたら五萬だツ

 と叫んで、繩を持つて押走《おつぱし》つて行つた。狸は素早く逃げようとしたが、黐がくツついて放れないで立つことが出來なかつた。それを爺樣は繩でぐるぐる卷きにして家へ下げて來た。そして土間(ニワ)の戶ノ口さ吊しておいて町へ用たしに行つた。

 婆樣はホラマエ(入口の土間)で粉を臼でスツトン、カツトンと搗いて居た。すると吊されてゐた狸が悲(カナ)しさうな聲を出して、婆樣々々、おれも搗いてすけるから、この繩を解いてケてがんせ[やぶちゃん注:底本は「がせん」。「ちくま文庫」版で訂した。]と賴んだ。爺樣にクラレル(叱られる)から厭(ヤ)んたんすと婆樣が言つても、いいから搗いてすけツから解いてケてがんせとせがんだ。あんまりうるさく賴むので、婆樣もとうとう我(ガ)を折つて繩をといてやつた。そして狸と二人で粉を搗いた。すると狸が婆樣々々俺が搗くから、婆樣は手合(テアワ[やぶちゃん注:ママ。])しをしてがんせと言つた。婆樣もだいぶ搗き疲れたものだから、そんだらと言つて、手合しをすると、狸は婆樣々々もツと臼の中を搔𢌞(カンマ)し申《まう》さい。まツと[やぶちゃん注:「もっと」の意であろう。]臼の中を搔𢌞し申さいと言つて、臼の中に婆樣の頭が屈(コゴ)み入つた時、狸はドエラ(いきなり)と杵《きね》を婆樣の頭の上に落して、婆樣を搗き殺してしまつた。そして婆樣の皮を剝いでかぶつて婆樣に化けて、婆樣をば細々《さいさい》に[やぶちゃん注:細(こま)かに。]切つてお汁にして食つて居た。

 爺樣が町から歸つて、婆樣今來たぢエ、狸はまだ生きて居《を》るかと訊くと、婆樣に化けた狸は、爺樣が歸らねエうちに杵で搗殺《つきころ》してお汁(ツケ)に煮て置いたから、早く入つて食(ア)がンもさいと言つて、すすめた。爺樣はそれを狸汁だと思つて食ひながら、何だか味が怪(オカ)しいので小頸《こくび》を傾(カタ)げ傾(カタ)げした。狸は爺樣々々あれア味(アナゴ)のええ狸だベアと言つて、爺樣が食ひ上げたところを見すまして、バエラ婆樣の皮を脫いで狸になつて、裏口から逃げて行きながら囃《はや》し立てた。

   婆々食つた爺々やい

   奧齒さ婆アンゴをはさんでろツ

[やぶちゃん注:「婆アンゴ」意味不明。「婆」を搗き込んだ「あんこ」(餡ころ餅(あんころもち))、或いは「団子」(ダンゴ)の意か。ただ、通常の「かちかち山」では、当該ウィキを見られたいが、この部分の狸の罵りは、一般に「婆汁、食べた! 婆汁、食べた! 流しの下の、骨を見ろ!」であるから、「アンゴ」はもしかすると、「顎(あご)」で、「奥歯に、婆の顎の骨を、挟んでるがいい!」という意かも知れないとも思った。]

 爺樣は始めて、婆樣が狸に殺されたのを知つておいおいと泣いて居た。そこへ兎が、爺樣なにして泣いて居ると言つて來た。誰だと思つたら兎どんだか、兎どん兎どんよく聽いてケ申(モ)せ、婆樣が狸に殺されたから俺はかうして泣いて居ると言ふと、兎は爺樣にひどく同情して、爺樣々々そんだら團子《だんご》をこしらへてケもされ、俺が行つて婆樣の仇《かたき》を取つて來てケるからと言つた。爺樣もさう言はれてやつと元氣がついて、そんだら賴むと言つて、團子をこしらへて兎に婆樣の仇討ちを賴んだ。

 兎は萱山《かややま》へ行つてやくと(故意(ワザ)と、或は冗談に)萱を苅る眞似をして居ると、そこヘ狸が來て、兎もらひ[やぶちゃん注:「朋輩」の意。親称。]が何してると聲をかけた。誰(ダン)だと思つたら狸もらひか、何所《どこ》サ行くと訊くと、なアに何所さも行かねアが、この下の爺の家の婆樣を食つて腹くちエから、斯《か》うしてぶらぶらと遊んで步いて居る。兎もらひが萱苅りだら俺もすけるからと言つて、萱苅りをしてすけた。そして夕方萱を負(シヨ)つて家へ歸る途中で、狸もらひ狸もらひ、そつちは足が早いから先へ立てと言つて、狸を前に立てゝ置いて、兎はカツチラ、カツチラと火打石を打つた。すると狸がその音を聽きとがめて、兎もらひあの音は何(ナン)だと訊いた。なアに此所の山にはカチカチ鳥コがいるから、あゝ鳴いて居るべたらと兎が答へると、狸はハアと言つて步いて居た。そのうちに兎は狸の負つた萱に火をつけて、プウプウと火を吹いた。するとまた狸がその音を聽きとがめて、兎もらひあの音は何(ナン)だと訊くと、なアに此所はプウプウ鳥がいる所だから、それであゝ鳴いているべたらと言ふと、ハアと言つて狸は步いて居た。さうしてゐるうちに狸の負つた萱に火が點(ツ)いてボガボガと燃え上つた。あツ熱ツ熱ツ、兎もらひ早く火を消してケろと言つて狸は飛び跳ね飛び跳ね步いた。その時には兎はいツちに(疾《とつ》くに)其所に居なくなつて居た。

 次ぎの日、兎が樺皮山《かばかはやま》へ行つて居ると、狸が來た。そして兎もらひ兎もらひ、汝(ソツチ)ア昨日萱山《かややま》で俺をひでエ目に遭はせたなア。俺アこれアこんなに背中を燒傷(ヤイ)たがと言つて恨《うら》んだ。すると兎は、狸もらひ狸もらひ、そんなことを言ふもんぢやねエ。それは萱山の兎だべたら、俺ア樺皮山の兎だもの、そんなことは知らない。それよりも[やぶちゃん注:底本は「そよりも」。「ちくま文庫」版を採った。]狸もらひは何所《どこ》を燒いた、どれ俺に見せろと言ふと、狸は痛がつて背中から尻の方までの燒傷《やけど》を見せると、これくれエの傷なんでもねアぢや。俺が直してやるから待つて居ろと言つて、樺皮を剝いで、狸の尻にしつかりと縫着《ぬひつ》けてやつた。そして斯うして置けば直ぐなほるからと言つた。狸は喜んでほんとに治るかと思つて居るうちに糞が出たくなつて、出たくなつて、サアことで、あつちの木の株へ行つてこすり、こつちの石角《いしかど》に來てこすつても、なかなか樺皮は脫(ト)れず、そのうちにモグしてしまつたりして[やぶちゃん注:「もぐす」は「漏らす」の岩手の方言。「糞を」である。]、靑くなつて、篠竹山《しのだけやま》へ來て空吹(ソラフ)いて居た(上の方を見ていた)。

 其所へ兎が來て、ざいざい[やぶちゃん注:「あらあら」の意か。]狸もらい[やぶちゃん注:ママ。]でアねアか、そこで何して居ると訊いた。何して居べさ、俺アお前に樺皮を尻さ縫着けられて、こんなに困つて居るでアと言ふと、ぢえツ、汝(ソツチ)はなに言ふ、それは樺皮山の兎だべだら、俺ア篠竹山の兎だ。そんなことア少しも知らねえ。ただその樺皮は篠竹で打つて打つて破らねエとお前が困《こま》ンベから、俺がその皮を取つてケると言うと狸も困つて居る矢先きだから、ほんにさうしてケろと賴んだ。そこで兎は篠竹を十本ばかり束ねて、それで狸の尻を、スツケタモツケタ、カンモゲタツと言ひながら、うんとうんと撲《ぶ》つた。すると狸の尻の樺皮も脫(ト)れたが火傷した肉も打《ぶ》ツ切れて、あゝ痛いツ、あゝ痛いツと言つて泣いた。それを見て兎は、はアこれ位でえンだと言つて、痛がつて轉び𢌞つて居る狸を其所に置き放しにして何所へか行つてしまつた。

(その次の日に兎は楢ノ木山《ならのきやま》へ行つて、木を伐つて居た。そこへ狸が來て、兎は楢ノ木船《ならのきぶね》を、狸は土船《つちぶね》を作り、共に漁に行き、例の楢ノ木船がツかり、土船あごつくりと言つて、船を叩いて、狸は水中に落ちて溺死をし、兎は首尾能《よ》く、婆樣の仇を討つたと謂ふ筋は、一般のカチカチ山の話と同じであるから畧す。)

[やぶちゃん注:最後の附記は、ご覧の通り、本文と同ポイントで、字下げもない。]

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