畔田翠山「水族志」 タマガシラ (タマガシラ)
(二八)
タマガシラ【紀州若山】 一名エビスダヒ【泉州小島浦】アカバナ【筑前福間浦】チダヒ【尾州常滑】マムダヒ【土佐浦戶】イチ【勢州慥柄浦】レンコ【紀州田邊】シマダイ
形狀棘鬣ニ似テ細ク厚シ鱗麁ク眼赤色瞳黑色下唇ノ裏白ク腹白色
遍身淡紅色ニ乄背ヨリ腹上ニ至リ紅色ナル橫斑條ヲナス脇翅腹下
翅俱ニ紅黃色腰下鰭及尾紅黃色背鬣上ハ黄色ニ乄淡紫紅斑アリ下
ハ淡赤色尾岐ヲナス味輕シ
○やぶちゃんの書き下し文
たまがしら【紀州若山。】 一名、「えびすだひ」【泉州小島浦。】・「あかばな」【筑前福間浦。】・「ちだひ」【尾州常滑。】・「まむだひ」【土佐浦戶。】・「いち」【勢州慥柄浦。】・「れんこ」【紀州田邊。】・「しまだい」
形狀、棘鬣(まだひ)に似て、細く、厚し。鱗、麁(あら)く、眼、赤色。瞳、黑色。下唇の裏、白く、腹、白色。遍身(へんしん)、淡紅色にして、背より腹上に至り、紅色なる橫斑(わうはん)、條をなす。脇翅(わきびれ)・腹下翅(はらしたびれ)、俱に紅黃色。腰下鰭(こししたびれ)及び尾、紅黃色。背鬣(せびれ)、上は黄色にして、淡紫紅、斑(まだら)あり、下は淡赤色。尾、岐をなす。味、輕し。
[やぶちゃん注:底本はここ。これは、ズバり、
スズキ目スズキ亜科イトヨリダイ科タマガシラ(玉頭)属タマガシラ Parascolopsis inermis
である。国立国会図書館デジタルコレクションの宇井縫蔵「紀州魚譜」(三版・昭和七(一九三二)年刊)の「タマガシラ」の項の「方言」で本書を挙げてある。「ぼうずコンニャクの市場魚類図鑑」のタマガシラのページをリンクさせておくが、その「方言」には以上で畔田が挙げている異名は載らない。]
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