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2023/05/12

大手拓次訳 「夜の歌」 (ポール・フィル)

 

[やぶちゃん注:本電子化注は、初回の冒頭に示した通りで、岩波文庫の原子朗編「大手拓次詩集」(一九九一年刊)からチョイスし、概ね漢字を正字化して、正規表現に近づけて電子化注したものである。

 以下は、底本の最終パートである『訳詩』に載るもので、原氏の「解説」によれば、明治四三(一九一〇)年から昭和二(一九二七)年に至る約百『篇近い訳詩から選んだ』とあり、これは拓次数えで二十三歳から四十歳の折りの訳になる詩篇である。原氏曰はく、『同じ原作者のもの(たとえば最多のボードレール)がとびとびで出てくるのは、拓次訳の成立年次に従ったためである。原作者名も一、二、編者が手を入れたものもあるが、できるだけ拓次自身の表記に従った。これらはフランス語の原詩からの直接訳、ないしフランス語訳からの重訳がほとんどだが、リルケ、リリエンクローン、タゴール、ペネット等の訳は英語からのものである』とあり、最後に、『まとめていえることは、それが訳詩ほんらいのありようとはいえ、しかし、どれもあまりにも拓次自身の詩になっているということである。編者は、かつて、一つ一つ、拓次の拠った原詩にあたり、上田敏をはじめ、他の訳者による日本語訳のあるものはそれらにもあたって、拓次訳の欠点と長所を点検したことがあるが、あまりに大胆な「拓次ぶり」に感心し、あまりの意訳、あるいは誤訳等の欠陥も、拓次自身先刻承知のうえでのことではなかったかと思ったほどである。拓次が決定的な影響を受けたボードレールほか、サマンやグールモンなど、とくにフランス詩との拓次一流の「交感」の実態を、しかし、彼の訳詩は如実に示している』とあるのは、非常に同感するものである。

 私は既に、死後に刊行された『大手拓次譯詩集「異國の香」』を正規表現版で、このブログ・カテゴリ「大手拓次」で分割で、また、サイト版を「心朽窩新館」で、PDF一括縦書版、及び、同横書版(一部の詩篇で原詩を注で示した関係から、欧文を読み易くするために、こちらも作成した)で電子化注を公開しているが、原氏の底本では、同訳詩集とは異なる原稿から採録されているものがかなり多くある。実は、上記の「異國の香」に載るもので、原氏のこの底本にある別稿を注で示したものもあるので、それらの再校訂をしつつ(実は既に「異國の香」の本文や注に引いた本底本の詩篇中にミス・タイプやルビ落ちを発見してしまった箇所があり、それらは順次修正をしている)、チョイスすることとする。また、同一と見做していたが、よく見ると、今回の比較で、ルビがあるものや、連構成が異なるものを見出している。それらは、やはり、ここで取り上げて示すこととする。ブログ版だけなら、そちらで追加処理出来るが、二つのPDFの場合、行数が増えると、全体の送りを補正しなくてはならなくなり、結果して大仕事になってしまうのを避けるためである。

 

 夜の歌 ポール・フィル

 

影は、匂ひのやうに山山から消散し、

また沈默は死を信ぜらるるほどである。

此夕べ、星の光が西風の流れのなかにのぼるのを聽くだらう。

 

默想は、お前の眼が、反映をもつて、彼女の路の岸を魅する所の

源である事をお前の額の下に。

……星の世界の上に空を奪ひとり、苔の露のなかに、星の靑い歌をきく。

 

吸ひ、そして空氣を吐く、空氣の花はお前の息、

お前の暖かい息は花を匂はせる、

空を眺めつつ信心深く息を吸ひ、

そしてお前の濕つた息は、尙千草を星で飾るだらう。

 

お前の暗い眼のなかに全き空を泳がせる、

そして、地球の影にお前の沈默をまぜ合す。

もし、お前の命がその影の上に顏を爲さないならば、

お前の眼とその露とは地球の鏡である。

 

お前の魂が永久の軸の上にのぼるのを感ずる。

神聖な、そして天に達する情緖は

お前の星が、或は、お前の永久の魂が

その花びらを半ばひらきつつ空を匂はす眼である。

 

見えない枝を持つてる夜の壁列樹(かべなみき)に、

吾等の生命の希望である此黃金の花の輝くのを見よ、

吾等の上に煌(きらめ)くのを見よ――未來の生命を持てる黃金の印章――

夜の樹のなかにあらはな吾等(われら)の星を。

 

お前の凝視が星に溶けるのをきく、

彼等の反映は、やさしげにお前の眼のなかに衝突し、

お前の凝視はお前の呼吸の花に溶けつつ、

新らしい星をお前の眼にあらはれしめよ。

 

默想はお前の物であれ、お前の感覺を考へよ、

此生命のなかに散亂せるお前自身を燃えなくしめよ、

理解もなくお前の眼のなかに空を整理せよ、

そしてお前の沈默で、夜の音樂を創造せよ。

 

[やぶちゃん注:作者ポール・フィルは不詳。欧文の綴りを試み、そのフレーズ検索もしてみたが、これらしいという詩人すら見当たらない。従って、どの国の出身かさえも判らない。されば、原詩に当たることも出来ず、以上の訳語の読みの一部も不審があるが、判らない。識者の御教授を乞うものである。

「尙千草を」「なほ、ちぐさを」と訓じておく。]

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