大手拓次訳 「輪舞歌(ロンド)」 ポール・フォル
[やぶちゃん注:本電子化注は、初回の冒頭に示した通りで、岩波文庫の原子朗編「大手拓次詩集」(一九九一年刊)からチョイスし、概ね漢字を正字化して、正規表現に近づけて電子化注したものである。
以下は、底本の最終パートである『訳詩』に載るもので、原氏の「解説」によれば、明治四三(一九一〇)年から昭和二(一九二七)年に至る約百『篇近い訳詩から選んだ』とあり、これは拓次数えで二十三歳から四十歳の折りの訳になる詩篇である。
ここでは、今までとは異なり、一部で、チョイスの条件が、かなり、複雑にして微妙な条件を持ち、具体には、既に電子化注した死後の刊行の『大手拓次譯詩集「異國の香」』に載っていても、別原稿を元にしたと考えられる別稿であるもの、同一原稿の可能性が高いものの表記方法の一部に有意な異同があるものに就いては、参考再掲として示す予定であるからである。それについての詳細は、初回の私の冒頭注の太字部分を見られたい。]
輪舞歌(ロンド) ポール・フォル
もしも世界の娘たちがみんな揃つて手をかすならば、
娘たちは海のまはりにぐるりとロンドをやる事が出來るのに。
もしも世界の若者たちがみんな揃つて船乘りになるならば、
若者たちはめいめいの小舟(バルク)を波の上の樂しい橋とする事が出來るのに。
そして世界の人人がみんな揃つて手をかすならば、
世界のまはりにひとつのロンドをやる事が出來るのに。
[やぶちゃん注:フランスの詩人で劇作家としても知られるジュール・ジャン・ポール・フォール(Jules-Jean-Paul Fort 一八七二 年~一九六〇年:象徴性・単純さ・抒情性が混淆したバラードを得意とし、それらの幾つかは歌曲にも編曲されているようである)の‘ La Ronde Autour Du Monde ’(「世界を巡るロンド」)。
フランス語の同詩篇のPDF化されたこちらを参考に、原詩を示す。
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LA RONDE AUTOUR DU MONDE
Si toutes les filles du monde voulaient s’donner la main,
Tout autour de la mer elles pourraient faire une ronde.
Si tous les gars du monde voulaient bien êtr’ marins,
Ils f’raient avec leurs barques un joli pont sur l’onde.
Alors on pourrait faire une ronde autour du monde,
Si tous les gens du monde voulaient s’donner la main.
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なお、cnz27hrio氏のブログ「カンツォーネ」の「セルジョ・エンドリゴ(SERGIO ENDORIGO)番外編 “世界をつなぐ若者”」の中に、ブログ主の「私の好きな少年少女詩 ★ 『輪おどり』 詩:ポール・フォール 訳:西條八十 (西条八十)」として、西条の訳詩が読めるので、参照されたい。また、フランス語の個人サイトのこちらで、同詩の朗読も聴くことが出来る。
「小舟(バルク)」“barque”。一般に「百トン以下の船」或いは「ボート・小舟」の意。但し、この語は海事用語で、“goélette”と同義で、「スクーナー船」、所謂、二本マストの帆船をも指す。詩篇の初読では、若者たちの小舟でいいが、世界一周(標題はそうも訳し得る)に達する時は、後者の方が絵としてはいいかも知れぬと感じた。]
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