大手拓次 「春の斷章」
[やぶちゃん注:本電子化注は、初回の冒頭に示した通りで、岩波文庫の原子朗編「大手拓次詩集」(一九九一年刊)からチョイスし、概ね漢字を正字化して、正規表現に近づけて電子化注したものである。
以下は、底本のパート『文語詩』に載るもので、拓次数えで四十二歳から四十五歳の折りの創作になる詩篇である。詳しくは、こちらの初回の私の冒頭注を参照されたい。]
春の斷章
*
しづけさは 影をまとへり
われ 懶惰(らんだ)のみちにゆきくれて
かさなれる こゑのおもてに身をとざす
*
ものかげに ひかりあり
たゆたへる その花びら
心して 摘むなかれ
*
こころ こころをもとむれど
かたみに みえざれば
うつくしき虹
わたるよしなし
*
まことなればこそ
言葉 ほのかなれ
風 花をめぐりてすぎぬ
*
わがこころ
黃金(こがね)のくさりもて いましめられ
鳥のごとく
ほそき枝のうへに ためらへり