譚海 卷之十一 ギヤマンの事 /(フライング公開)
[やぶちゃん注:現在、作業中である『「續南方隨筆」正規表現版オリジナル注附 「南方雜記」パート 鷲石考(1)』に必要となったので、フライングして電子化する。]
○ギヤマンと云もの、水晶の如く堅くて、玉(ぎよく)のやうなる物也。おらんだ人、持來(もちきた)る。
又、常に、ギヤマンを、おらんだ人、無名指[やぶちゃん注:薬指の異名。]に、かねのわをかけて、はさみ持(もち)て、刀劍の代りに用(もちふ)る也。
石鐵(せき・てつ)の類(たぐひ)、何にても、堅き物を、此ギヤマンにて磨(す)る時は、微塵に、くだけずといふ事、なし。
「人をも、害す。」
と、いへり。
又、物をうつし取(とる)に、ことごとく、あざやかに、うつりて、みゆる也。
壁にわづか成(なる)穴あれば、穴にギヤマンをあてゝみる時は、鄰の事、殘らず、うつりて、みゆる也。
全體、ギヤマンと云(いふ)は鳥の名なる、よし。
此鳥、雛を生(しやう)じたるをみて、おらんだ人、其ひなを、とりて、鐵にて拵へたる籠(かご)に入置(いれおく)時に、親鳥、ひなの鐵籠に有(ある)をみて、頓(やが)て、此玉を含(ふくみ)來りて、鐵の籠を破り、雛をつれて飛去(とびさ)る。
其(その)落(おと)し置(おき)たる玉ゆゑ、鳥の名を呼(よん)で、ギヤマンと云(いふ)事、とぞ。
「此もの、おらんだ人も、何國(いづこ)にある物と云(いふ)事を、しらず。」
と、いへり。
[やぶちゃん注:「ギヤマン」江戸時代のダイヤモンド(金剛石)の呼称。オランダ語 diamant の訛りとも、ポルトガル語 diamão の訛りともされる。本来は、ダイヤモンドそのものをいう語であったが、水晶などの宝石類や、ダイヤモンドで加工されたカット・グラスを含め、広くガラス製品一般の呼称ともなったが、実は、既に早く室町末期に、オランダ人によって製法が伝えられていた酒杯・瓶・鉢などのガラス製の器具「ビードロ」と混同され、板状のガラス板を除いたガラス製品を総称して「ぎやまん」「ビードロ」と呼ぶようになって、両者の厳密な区別はなくなった。なお、「ビードロ」はポルトガル語の vidro の訛りとされる(小学館「日本大百科全書」に拠った)。
「鳥の名」不詳。]
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