大手拓次訳 「秋のはじめ」 (カール・ブッセ)
[やぶちゃん注:本電子化注は、初回の冒頭に示した通りで、岩波文庫の原子朗編「大手拓次詩集」(一九九一年刊)からチョイスし、概ね漢字を正字化して、正規表現に近づけて電子化注したものである。
以下は、底本の最終パートである『訳詩』に載るもので、原氏の「解説」によれば、明治四三(一九一〇)年から昭和二(一九二七)年に至る約百『篇近い訳詩から選んだ』とあり、これは拓次数えで二十三歳から四十歳の折りの訳になる詩篇である。
ここでは、今までとは異なり、一部で、チョイスの条件が、かなり、複雑にして微妙な条件を持ち、具体には、既に電子化注した死後の刊行の『大手拓次譯詩集「異國の香」』に載っていても、別原稿を元にしたと考えられる別稿であるもの、同一原稿の可能性が高いものの表記方法の一部に有意な異同があるものに就いては、参考再掲として示す予定であるからである。それについての詳細は、初回の私の冒頭注の太字部分を見られたい。]
秋のはじめ カール・ブッセ
いま秋が來た、空は不思議に靑白くなり、
赤くなつた林檎の落ちるに風はいらない、
鸛(こふのとり)はもうずつと前に此の黃色くなりかかつた土地を去つた。
夜はだんだん冷たくなり、萬聖節も間近になつた。
木の葉はやがてこぼれ落ちるだらう、で今心は心を見出す。
いとしいものよ、お前と私とが別れる折ではないか?
[やぶちゃん注:ドイツの詩人・作家カール・ヘルマン・ブッセ(Karl Hermann Busse 一八七二年~一九一八年)。上田敏が明治三八(一九〇五)年に訳詩集『海潮音』に収めた「山のあなた( Über den Bergen )」の名訳のお蔭で、国語教科書にも度々採用されたために本邦では知らぬ人が少ないが、ドイツ本国では殆んど無名の詩人である。大手拓次の『譯詩集「異國の香」』には「滿月の夜に」(作者名の音写は拓次のそれでは『カール・バツス』)が載る。
「鸛(こふのとり)」この場合は、ロケーションがドイツであるから、ヨーロッパ・西アジア・中東・アフリカ北部及び南部で繁殖するコウノトリ目コウノトリ科コウノトリ属シュバシコウ亜種シュバシコウ Ciconia Ciconia ciconia であろう。因みに、本邦で言うそれは、コウノトリ属コウノトリ Ciconia boycianaで分布域は東アジアに限られる。なお、後者の博物誌は私の「和漢三才圖會第四十一 水禽類 鸛(こう)〔コウノトリ〕」を参照されたいが、最近、電子化注したものでは、本邦の「鸛」の民俗誌を含め、『「續南方隨筆」正規表現版オリジナル注附 「南方雜記」パート 鴻の巢』が参考になるはずである。]
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