「新說百物語」巻之一 「丸屋何某化物に逢ふ事」
[やぶちゃん注:書誌・凡例その他は初回の冒頭注を参照されたい。
底本は「国文学研究資料館」のこちらの画像データを用いる。但し、所持する国書刊行会『江戸文庫』の「続百物語怪談集成」(一九九三年刊)に載る同作(基礎底本は国立国会図書館本とあるが、国立国会図書館デジタルコレクションで検索しても、かかってこないので、公開されていない)にある同書パートをOCRで読み込み、加工データとして使用させて戴いた。ここに御礼申し上げる。今回はここから。本話には挿絵はない。]
丸屋何某(なにかし[やぶちゃん注:ママ。] )化物(ばけもの)に逢ふ事
近き比《ころ》の事なりしか[やぶちゃん注:ママ。] 、三条《さんでう》の西に、丸屋何某といふ、藥をあきなふ人、ありしか[やぶちゃん注:ママ。] 、ある時、仲間(なかま)の「より合《あひ》」にて、東山邊にゆき、河原にて、酒なと[やぶちゃん注:ママ。] 、のみて、夜ふけて、壱人《ひとり》、四条《しでう》を、にしへ、かへりけるか[やぶちゃん注:ママ。] 、川原にて、下《した》のかたを見れは[やぶちゃん注:ママ。] 、うす月夜に、乞食(こつじき)とも見えす[やぶちゃん注:ママ。] 、うごめくもの、あり。
さけのきけん[やぶちゃん注:ママ。] にて、そは[やぶちゃん注:ママ。] に立ちより、とくと見けれは[やぶちゃん注:ママ。] 、人のかたちにてはありなから[やぶちゃん注:ママ。] 、顏とおほしき[やぶちゃん注:ママ。] 所に、目・口・鼻・耳も、なく、朝瓜(あさうり)のおゝきさ[やぶちゃん注:ママ。]なるかしらにて、ものをも、いはす[やぶちゃん注:ママ。] 、はひまはりける。
[やぶちゃん注:「朝瓜」ウリ目ウリ科キュウリ属メロン変種シロウリ Cucumis melo var. utilissimus の異名。「白瓜」の他、「越瓜」とも書く。当該ウィキによれば、『呼称は、完熟すると』、『皮の色が白っぽくなることにちなむ。身が緻密で味が淡白であるため、奈良漬けなどの漬物での利用が適している。種を抜いて』、『螺旋状に切り塩をして干したものは』、『雷干し』や『雷乾し』(孰れも「かみなりぼし」と読む)『と呼ばれ』、『夏の風物詩であった』とある。]
そのとき、はじめて、
「ぞつ」
と、こはげたち[やぶちゃん注:「怖氣立ち」であろう。]、あしはや[やぶちゃん注:ママ。]に歸りけるが、夜あけて、友だちなと[やぶちゃん注:ママ。] にかたるに、それは、或(ある)人の、いひける、
「『ぬつぺりほう』といふ化物。」
の、よし。
其後《そののち》、また、彼(かの)丸屋なにかし[やぶちゃん注:ママ。]、黑谷《くろだに》へ、あきなひにゆきて、おそくなり、初夜[やぶちゃん注:午後八時頃。]のころ、二条河原《にでうがはら》を通りけるか[やぶちゃん注:ママ。] 、先達(さきたつ)ての事を、おもひ出し、小氣味(こきみ)あしく、通りけるに、河原の中程に、かの物、また、うごめきて居《ゐ》たり。足はやに通りけるに、
「するする」
と、這來(はいきた[やぶちゃん注:ママ。])たりて、裾(すそ)に、とりつきたり。
「こは、叶《かな》はじ。」
と、ふり切りて、一さんに、我が宿に歸りて、はしめて[やぶちゃん注:ママ。] 、正氣になり、我《わが》きるものゝ裾を見れは[やぶちゃん注:ママ。] 、ことのほか、ふとき毛、十筋(とすじ[やぶちゃん注:ママ。])ばかり、ありけり。なにの毛といふことを、見しる人、なかりける。
[やぶちゃん注:「ぬつぺりほう」言わずもがな、「のっぺらぼう」のこと。当該ウィキをリンクさせておく。私の『柴田宵曲 續妖異博物館 「ノツペラポウ」 附 小泉八雲「貉」原文+戸田明三(正字正仮名訳)』、及び、より本文・注をブラッシュ・アップした『小泉八雲 貉 (戸川明三訳) 附・原拠「百物語」第三十三席(御山苔松・話)』もお薦めである。]
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