「新說百物語」巻之二 「奈良長者屋敷怪異の事」
[やぶちゃん注:書誌・凡例その他は初回の冒頭注を参照されたい。
底本は「国文学研究資料館」のこちらの画像データを用いる。但し、所持する国書刊行会『江戸文庫』の「続百物語怪談集成」(一九九三年刊)に載る同作(基礎底本は国立国会図書館本とあるが、国立国会図書館デジタルコレクションで検索しても、かかってこないので、公開されていない)にある同書パートをOCRで読み込み、加工データとして使用させて戴いた。ここに御礼申し上げる。
今回はここから。本篇には挿絵はない。この篇も濁音脱落が多い。ママ注記が五月蠅いが、悪しからず。]
奈良長者屋敷怪異(けい)の事
南都に「長者屋しき」といふ、ふるき家あり。
成ほと[やぶちゃん注:ママ。]、むかしは、よしある人の住みける所と見へて、余程の大屋しきなり。
「化物あり。」
と、いゝふらして、今は、住む人もなかりしが、近き頃より、道心者(どうしんしや)・修行者(しゆぎやうじや)やうのもの、誰にことはるといふ事もなく、住居《すみゐ》いたしける。
夜分になれは[やぶちゃん注:ママ。]、月影にても、ともし火のかけ[やぶちゃん注:ママ。「影」。光り。]にても、幾人も踊る影法師、壁に、うつりける。
其かたち、小坊主もあり、又、すこしおゝき成《なる》影もあり。
そのかげばかりにて、其すかた[やぶちゃん注:ママ。]は見へず。
あやしき事なりしか[やぶちゃん注:ママ。]、近頃の火事に、屋敷も跡かたなく、燒けうせける。
森氏の人、
「見に行きたり。」
と、後に、みつから[やぶちゃん注:ママ。]かたられし。
[やぶちゃん注:旧都奈良の近々の都市伝説である。影法師しか見せなかったこと、焼亡してより、怪異はなくなったらしいことから、狐狸の妖異の類いではなく、古屋敷及びそこに附帯していた家具等の古物の付喪神であったと考えられよう。]
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