「新說百物語」巻之五 「鼻より龍出し事」
[やぶちゃん注:書誌・凡例その他は初回の冒頭注を参照されたい。
底本は「国文学研究資料館」のこちらの画像データを用いる。但し、所持する国書刊行会『江戸文庫』の「続百物語怪談集成」(一九九三年刊)に載る同作(基礎底本は国立国会図書館本とあるが、国立国会図書館デジタルコレクションで検索しても、かかってこないので、公開されていない)にある同書パートをOCRで読み込み、加工データとして使用させて戴いた。ここに御礼申し上げる。
今回はここから。この篇も濁音脱落が多い。ママ注記が五月蠅いが、悪しからず。]
鼻より龍出し事
武州の事にてありしか[やぶちゃん注:ママ。]、あるやしきの若黨、晝寐して居りけるが、鼻の内、こそはく[やぶちゃん注:ママ。「こそばゆく」。]、目をあきて、鼻をかみける。
そのとき、鼻の内より、飛虫《とびむし》のごとくなるもの、飛出《とびいで》て疊の上に落ちたり。
ふしき[やぶちゃん注:ママ。]におもひて、枕もとの茶わんにて、ふせ置き、又、一寐いりいたしける。
目をあきて、おもひ出し、茶わんを、のけてみれば、甚《はなはだ》おゝきく[やぶちゃん注:ママ。後も同じ。]成《なり》、茶わん、一はい[やぶちゃん注:ママ。後も同じ。]に、なりたり。
主人、是を聞《きき》て、桶に入れて、ふたを、いたしをき[やぶちゃん注:ママ。]、夕方、見たりけれは[やぶちゃん注:ママ。]、桶、一はいになりたり。
又、おゝき成《なる》半切桶《はんぎりをけ》に入《いれ》て置きけれは[やぶちゃん注:ママ。]、是にも、一はいに、なりたりける。
[やぶちゃん注:「半切桶」「盤切桶」とも書く。盥(たらい)の形をした、底の比較的浅い桶のこと。]
何とやらむ、おそろしく、
「明日は、河へ捨つへし[やぶちゃん注:ママ。]。」
とて、庭に出しをき[やぶちゃん注:ママ。]、大石を、おもしにして、おきけるか[やぶちゃん注:ママ。]、夜明けて、みれば、石も、ふたも、其まゝにて、其物は、いつかた[やぶちゃん注:ママ。]へ行《ゆき》けん、見へす[やぶちゃん注:ママ。]、となん。
「是ほと[やぶちゃん注:ママ。]の㚑妙(れい《みやう》)なるものは、あらし[やぶちゃん注:ママ。]。もしも、龍にてや、ありなん。」
と沙汰致しける。
[やぶちゃん注:その形状を記していないので、何とも言えない、というか、そこが甚だ噓臭い。鼻腔内に節足動物が侵入し、長く寄生することがある(十数年前、東南アジアで女性のそこに何年も数センチのムカデが寄生していたという記事を読んだことがある)が、ここにあるように、短時間の内に巨大化するというのは、ちょっと考えられない。江戸時代にはヒト寄生虫感染者は有意に多くおり、余りに多数の個体が寄生したために口から虫を吐く症状、所謂、「逆虫(さかむし)」という疾患名が残っているものの、それでも、この話は説明がつかない。気味は悪いものの、創作とせざるを得ぬ。]
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