佐々木喜善「聽耳草紙」 一三〇番 酸漿
[やぶちゃん注:底本・凡例その他は初回を参照されたい。今回は底本では、ここ。「酸漿」は「ほほづき」。双子葉植物綱ナス目ナス科ホオズキ属ホオズキ変種ホオズキ Alkekengi officinarum var. franchetii 。当該ウィキによれば、『「ほほづき」の名は、その実の赤くふっくらした様子から頬を連想したもの(「づき」は「顔つき」「目つき」の「つき」か)という』。『同じく赤い果実から「ほほ」は「火々」であり「つき」は染まる意味であるともいう』。『また』、『果実を鳴らして遊ぶ子供たちの様子から「頬突き」の意であるともいう』。『ほかにはホホ(蝥、カメムシの類)という虫がつくことを指すとする説もある』とあり、また、『漢字では「酸漿」のほか「鬼灯」「鬼燈」とも書く。中国の方言では酸漿の名のほかに「天泡」(四川)「錦燈籠」(広東、陝西)「泡々草」(江西)「紅姑娘」(東北、河北)などとも言い、英語では Chinese lantern plant ともよばれている』。本邦の『古語では「赤加賀智(アカガチ)』『」「輝血(カガチ)」「赤輝血(アカカガチ)」とも呼ばれていた。八岐大蛇のホオズキのように赤かった目が由来とされている』ともあった。]
一三〇番 酸 漿
昔、或旅人が山の中を旅して、一軒家を見つけて其所に宿をとつた。
翌朝、起きて畑を見たら、美しい酸漿がたくさん紅く實つてゐたので、それを一ツとつて中の種を出して口にふくんで、プリプリ吹き鳴らして居た。それを其の家の人が見つけて、ひどく驚いて、お客樣は大變なことをしてしまつた、きつと今に大變な罰《ばち》が當ると言つて顏色を變へた。
旅人も心配になつて、それは又如何《どう》してかと訊くと、每朝お日樣は、東から出て西ヘお沈みになさるが、そのお日樣は夜になると、地の下を潜つて此の酸漿の中ヘ一ツ一ツお入りになる、それでこんなに色が紅くなるのだ。酸漿はお日樣の赤ン坊だからと語つた。
(膽澤《いさは》郡西根山脈地方の話。織田君の話の二。
昭和三年夏の頃の分。)
[やぶちゃん注:「膽澤郡西根山脈地方」「膽澤郡西根」は、現在の地名としては岩手県胆沢郡金ケ崎町西根でここであるが、「西根山脈」と言った場合は、秋田県東成瀬村との間にある山脈筋を指すので、後者の中央附近を指していよう(孰れもグーグル・マップ・データ航空写真)。]
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