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2023/06/28

「新說百物語」巻之五 「針を喰ふむしの事」

[やぶちゃん注:書誌・凡例その他は初回の冒頭注を参照されたい。

 底本は「国文学研究資料館」のこちらの画像データを用いる。但し、所持する国書刊行会『江戸文庫』の「続百物語怪談集成」(一九九三年刊)に載る同作(基礎底本は国立国会図書館本とあるが、国立国会図書館デジタルコレクションで検索しても、かかってこないので、公開されていない)にある同書パートをOCRで読み込み、加工データとして使用させて戴いた。ここに御礼申し上げる。

 今回はここから。この篇も濁音脱落が多い。ママ注記が五月蠅いが、悪しからず。]

 

   針を喰《くら》ふむしの事

 京都三条の西に、貞林《ていりん》といふ尼ありけるか[やぶちゃん注:ママ。]、わかき時は、備前に、くたりて[やぶちゃん注:ママ。]御物縫《おんものぬひ》の奉公を、つとめけるか[やぶちゃん注:ママ。]、その折の事なりしが、此《この》貞林、物、縫ひける針の「おれ[やぶちゃん注:ママ。「折(を)れ」後も同じ。]」を氣遣ひに思ひて、隨分と、ひろひあつめ、針箱の底に置きけるか[やぶちゃん注:ママ。]

『取出《とりいだ》し、捨《すて》ん。』

と思へは[やぶちゃん注:ママ。]、見ヘす[やぶちゃん注:ママ。]

 弐度も、かやうなりける。

 あるとき、針箱の掃除をいたしけるに、おゝきさ[やぶちゃん注:ママ。]、三分[やぶちゃん注:九ミリメートル。]はかり[やぶちゃん注:ママ。]ある虫、出《いで》たり。

 めつらしき[やぶちゃん注:ママ。]物ゆへ[やぶちゃん注:ママ。]、針さしの上に置きける。

 此虫、

「そろそろ」

這《はひ》あるき、針さしの針を、

「ほろほろ」

と喰《くらひ》ける。

『さては、先達《せんだつ》ての針のおれも、此虫の喰ひけるものよ。』

と、おもひて、ちいさき[やぶちゃん注:ママ。]箱に入れ、針の「おれ」にて、飼ひ置きけれは[やぶちゃん注:ママ。]、二月《ふたつき》はかり[やぶちゃん注:ママ。]に、

一寸程になりたり。

 此よし、御主人、聞き給ひて、後には、古かねなと[やぶちゃん注:ママ。]あたへ給へは[やぶちゃん注:ママ。]、いよいよ、大きく成りける故、

「あやしきもの。」

とて、火にて、燒きころされしとなん。

 直(ぢき)に、此《この》貞林、かたられし。

[やぶちゃん注:特殊なバクテリアならまだしも、粗鉄を直に食う昆虫はいないから、これは貞林尼の作り話であろう。]

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