「新說百物語」巻之一 「甲刕郡内ほのをとなりし女の事」
[やぶちゃん注:書誌・凡例その他は初回の冒頭注を参照されたい。
底本は「国文学研究資料館」のこちらの画像データを用いる。但し、所持する国書刊行会『江戸文庫』の「続百物語怪談集成」(一九九三年刊)に載る同作(基礎底本は国立国会図書館本とあるが、国立国会図書館デジタルコレクションで検索しても、かかってこないので、公開されていない)にある同書パートをOCRで読み込み、加工データとして使用させて戴いた。ここに御礼申し上げる。今回はここから。本話には挿絵はない。]
甲刕(かうしう)郡内(ぐんない)ほのをとなりし女の事
黑沢氏のかたられしは、甲刕郡内といふ所に、老人夫婦、下女壱人《ひとり》つかふて、くらすものあり。
ある時、近所に佛事ありて、二人とも參り、下女壱人を、留主にをきて、出行《いでゆ》きけり。
初夜[やぶちゃん注:午後八時頃。]もすぎ、四つまへ[やぶちゃん注:午後十時よりも前。]にもならんと、おもふ頃、
「火事よ。」
と、いひ出し、人々、さはき[やぶちゃん注:ママ。] あひけるが、いつかた[やぶちゃん注:ママ。] とも見さだめす[やぶちゃん注:ママ。] 、火の光(ひかり)、あちよ、こちよと、さまよひける。
みなみな、とはうにくれけるか[やぶちゃん注:ママ。] 、その火の所へ、いたりて、よくよく、見れは[やぶちゃん注:ママ。] 、火の高さ、およそ小家一軒はかり[やぶちゃん注:ママ。]燒けるほどにて、西、東、北よ、南と、あるきけるか[やぶちゃん注:ママ。] 、其中に、女の、髮をさばきたるかたちありて、
「はあ、はあ、」
と、いふて、走りありくにて、ありける。
しはらく[やぶちゃん注:ママ。] ありて、たをれ[やぶちゃん注:ママ。]ふして、死したり。
跡にて、よくよく、みれは[やぶちゃん注:ママ。] 、彼《かの》二人のもの、留主《るす》にをきたる、下女なり。
何のゆへも、しれす[やぶちゃん注:ママ。] 。
そのまゝ、親本(おやもと)へ、死がいを送り、ほふむりけるか[やぶちゃん注:ママ。] 、
「前代未聞の事なり。」
と、人々、申しけるよし。
まさしく、黑澤氏、
「見たる。」
との、物かたりなり。
[やぶちゃん注:「甲刕郡内」現在でも山梨県都留郡一帯を指す地域呼称。当該地方は当該ウィキの地図を見られたい。
「黑澤氏」著者高古堂小幡宗左衛門の知人であろう。されば、これは創作ではなく、実話であり、冒頭注で述べた噂話・都市伝説の類いであることが判る。ちょっと他に類話を見ない意味不明のホラーとして興味深い。]
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