佐々木喜善「聽耳草紙」 一二九番 變り米の話
[やぶちゃん注:底本・凡例その他は初回を参照されたい。今回は底本では、ここから。標題の「變り米」は「かはりまい」と読んでおく。]
一二九番 變り米の話
早池峯山《はやちねさん》の麓の附馬牛(ツキモシ)村と云ふ所に、或百姓があつた。或年の旱(ヒデリ)に村中《むらぢゆう》の苗代が皆枯れてしまつて田植などは出來やうとも思はれなかつたが其百姓の家の苗代が一番ひどかつたので、或夜窃《ひそ》かに隣村へ行つて、生(イキ)の良い苗を少々盜んで來て、自分の田を一枚植えた。
其の當時苗盜人《なへぬすつと》が方々に起つて、盜人の詮議もまた劇しくなつた。其所へ隣村の者がやつて來て、コレは俺の所で盜まれた苗である。それに相違ないと頑張つた。百姓は否《いや》盜まぬと云つたが、相手はそれでは秋になつてから勝負を附けやう[やぶちゃん注:ママ。]、俺のところの苗は糯《もち》である、もしこれが糯であつたら、お前を牢[やぶちゃん注:底本では「穽」となっているが、どうも躓くので、「ちくま文庫」版で「牢」(牢屋の意)とした。]に打《ぶ》ち込むというのであつた。これには百姓も殆ど弱つて、早池峯山へ月詣りをして、何率(ドウ)かこの苗が粳米《うるちまい》になるやうに…と願かけをした。其中《そのうち》に黑白を決定(キメ)める秋の收穫時《しうくわくどき》が來たので、其稻を刈つて見ると其は確《たしか》に粳米であつた。否《いや》糯米《もちまい》が粳米に變つて居たのであつた。それで其百姓は助かつた。
早池峯山の神樣は盜人神樣だと謂ふ由來はそんな所からも出て居る。
(村の今淵小三郞殿の話。昭和元年頃の聽き記。)
[やぶちゃん注:「附馬牛村」岩手県遠野市附馬牛町(つきもうしちょう:グーグル・マップ・データ航空写真)。
dostoev氏のサイト「不思議空間「遠野」 -「遠野物語」をwebせよ!-」の「泥棒を守護する神トイウモノ」、及び、「泥棒を守護する神の根源」が素晴らしい! 是非、読まれたい。]
« 「續南方隨筆」正規表現版オリジナル注附 「『鄕土硏究』一至三號を讀む」パート「二」 の「呼名の靈」 | トップページ | 佐々木喜善「聽耳草紙」 一三〇番 酸漿 »

