「新說百物語」巻之五 「神木を切りてふしきの事」
[やぶちゃん注:書誌・凡例その他は初回の冒頭注を参照されたい。
底本は「国文学研究資料館」のこちらの画像データを用いる。但し、所持する国書刊行会『江戸文庫』の「続百物語怪談集成」(一九九三年刊)に載る同作(基礎底本は国立国会図書館本とあるが、国立国会図書館デジタルコレクションで検索しても、かかってこないので、公開されていない)にある同書パートをOCRで読み込み、加工データとして使用させて戴いた。ここに御礼申し上げる。
今回はここから。この篇も濁音脱落が多い。ママ注記が五月蠅いが、悪しからず。]
神木を切りてふしき[やぶちゃん注:ママ。]の事
丹州の事なりしか[やぶちゃん注:ママ。]、一村の鄕士にて、氣も丈夫なる者、ありける。
其村のやしろに、さして、社人とても、なく、一村より扶持を遣はしける老婆、壱人《ひとり》、守りにつけて、をきける。
此鄕士、
「我が屋敷、普請する。」
とて、
「其宮の前の大木を、きりて、普請につかはん。」
と申しけるを、彼《かの》老女、とめて、いふやう、
「此大木は、いつの頃よりといふことを知らぬ木なり。もしも、崇りなと[やぶちゃん注:ママ。]有りなんや。」
と申しけるを、何の苦もなく、切りたをし[やぶちゃん注:ママ。]、大普請、ほとなく[やぶちゃん注:ママ。]、成就いたしける。
「崇(たゝり)も、人によるものなり。」
と、荒言(くはうけん[やぶちゃん注:ママ。「くわうげん」。])抔《など》いたしける。
一兩月も過《すぐ》ると、彼の鄕士、うつらうつらと、わつらひ[やぶちゃん注:ママ。]出し、をりをりは、あらぬ事など、口はしりけるか[やぶちゃん注:総てママ。]、終《つひ》に、程なく、相果《あひはて》ける。
沐浴(もくよく)して、棺(くわん)に入れ、僧を賴み、番に付け置きけるか[やぶちゃん注:ママ。]、夜の中《うち》に、幾度といふ事もなく、棺より、這出(はい《いで》)て、つけ木に、火を、とほし[やぶちゃん注:ママ。]、そこらを、見あるき、又は、帚木《はうき》をとりて、座敷なと[やぶちゃん注:ママ。]、拂ひける事、夜の内、六、七度なり。
「とかく、はやく、はふむるへし[やぶちゃん注:ママ。]。」
とて、一門中、申して、明日《あくるひ》、葬礼を、つとめ、其屋敷の門を出るといなや、いなひかり[やぶちゃん注:ママ。]、おひたゝしく[やぶちゃん注:ママ。]、大かみなりにて、一向に、目も、あかれす。
「やうやう、はふむりて、かへりける。」
と、其村の人、かたり侍る。
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