「新說百物語」巻之五 「定より出てふたゝひ世に交わりし事」
[やぶちゃん注:書誌・凡例その他は初回の冒頭注を参照されたい。
底本は「国文学研究資料館」のこちらの画像データを用いる。但し、所持する国書刊行会『江戸文庫』の「続百物語怪談集成」(一九九三年刊)に載る同作(基礎底本は国立国会図書館本とあるが、国立国会図書館デジタルコレクションで検索しても、かかってこないので、公開されていない)にある同書パートをOCRで読み込み、加工データとして使用させて戴いた。ここに御礼申し上げる。
今回はここから。この篇も濁音脱落が多い。ママ注記が五月蠅いが、悪しからず。]
定(てう[やぶちゃん注:ママ。「ぢやう」が正しい。])より出てふたゝひ[やぶちゃん注:ママ。]世に交わり[やぶちゃん注:ママ。]し事
大坂の事なりしが、ある人、大屋敷を、もとめ、つゝくり、普請なと[やぶちゃん注:ママ。]、いたして、家移りいたしけるか[やぶちゃん注:ママ。]、はるかの地の下に、
「こん、こん、」
と、鉦の音、いたしける。
ふしき[やぶちゃん注:ママ。]には思ひなから[やぶちゃん注:ママ。]、其年も、くれて、春になれとも[やぶちゃん注:ママ。]、その鉦の音、やむとき、なし。
あまりに、心すます[やぶちゃん注:ママ。「澄まず」。]、地の下を、ほらせけれは[やぶちゃん注:ママ。]、およそ一丈はかり[やぶちゃん注:ママ。]ほりて、石の「からと」[やぶちゃん注:「唐櫃(からと)」。「からびつ」に同じ。脚が四本又は六本の、被せ蓋(ぶた)のついた、方形で、大形の箱。通常は衣服・図書・甲冑などを収納した。]を掘り出し、ふたを明けれは[やぶちゃん注:ママ。]、上には、髮の毛はかり[やぶちゃん注:ママ。]にて、其下に、骨と、皮とはかり[やぶちゃん注:ママ。]なるもの、鉦をたゝき居《ゐ》たりける。
樣子を、とヘとも[やぶちゃん注:ママ。]、物をも、いはす[やぶちゃん注:ママ。]。
それより、湯なと[やぶちゃん注:ママ。]、あたへ、そろそろと、白粥なと、すゝめ、其名を、とへとも覚へす[やぶちゃん注:ママ。以下同じ。]。
時代を、とへとも、覚へす。
只、あたまの髮の、のひたる[やぶちゃん注:ママ。]斗《ばかり》なり。
一月、たち、二月、たち、段〻に、しゝ[やぶちゃん注:「肉(しし)。]も、出來《いでき》て、後には、常の男のことく[やぶちゃん注:ママ。]なりたり。
いたしやうも、なけれは、臺所に、さしをき、火なと[やぶちゃん注:ママ。]、燒かせける。
四、五年も、すきて[やぶちゃん注:ママ。]、とくと、常の行往座臥に、おとらぬやうになりけるか[やぶちゃん注:ママ。]、其家の下女と、密通して、大坂を欠落《かけおち》いたしける、となん。
[やぶちゃん注:本篇は実は二〇〇九年三月十八日に、サイト版で「続百物語怪談集成」を底本として、語注と現代語訳を行っている。なお、この話のルーツとしての章花堂なる人物の元禄一七(一七〇四)年版行になる、
や、寛保二(一七四二)年版行になる三坂春編(はるよし)の、
更には、これの影響下にあると思われる安永五(一七七六)年の上田秋成の、
そうして確信犯的インスパイア作である同人の、
「春雨物語」の「二世の縁」も用意してある。はっきり言って、この手の話の中では、それほど上手く行っていない部類のものと言わざるを得ない。以上の中でも、完成度が高いものは、ブログ決定版(正規表現版)の「老媼茶話巻之七 入定の執念」を強くお勧めするものである。]
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