佐藤春夫譯「支那厯朝名媛詩鈔 車塵集」正規表現版 「秋の江」劉采春
[やぶちゃん注:書誌・底本・凡例等は初回を見られたい。本篇はここ。]
秋 の 江
不 喜 秦 淮 水
生 憎 江 上 船
載 兒 夫 婿 去
經 歲 又 經 年
劉 采 春
うたてしや秦淮の水
おぞましや江に浮ぶ船
わが夫(せ)をのせて去(い)にしより
流れけむ 年を幾年(いくとせ)
※
劉 采 春 九世紀初頭。 唐朝、元和年間、薛濤や杜秋娘などと同時代。 越の妓女である。 その囉嗊曲――望夫の歌は古來喧傳されてゐるものである。
※
[やぶちゃん注:台湾のサイト「人間福報」のこちらによれば、劉采春は魚玄機・薛濤・李冶と合わせて「唐朝四大女詩人」とされるとあり、清代の儒者で詩人の潘徳輿「養一齋詩話」では彼女の作品を「天下の奇作」と称したとあって、「全唐詩」には彼女の詩が六首収録されているとある。「囉嗊曲」(らこうきょく)は古歌の曲名で、別名を「望夫曲」と言い、「夫をあこがるる歌」の意である。この詩もその総題を持つ一つである。
推定訓読を示す。
*
囉嗊曲
喜ばず 秦淮の水を
生憎(あいにく)や 江上(こうしやう)の船(ふね)
兒(こ)を載せ 夫壻(ふせい)は去れり
歲(とし)を經(へ) 又 年を經(ふ)れり
*]
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