「新說百物語」巻之三 「猿子の敵を取りし事」
[やぶちゃん注:書誌・凡例その他は初回の冒頭注を参照されたい。
底本は「国文学研究資料館」のこちらの画像データを用いる。但し、所持する国書刊行会『江戸文庫』の「続百物語怪談集成」(一九九三年刊)に載る同作(基礎底本は国立国会図書館本とあるが、国立国会図書館デジタルコレクションで検索しても、かかってこないので、公開されていない)にある同書パートをOCRで読み込み、加工データとして使用させて戴いた。ここに御礼申し上げる。
今回はここ。本篇には挿絵はない。この篇も濁音脱落が多い。ママ注記が五月蠅いが、悪しからず。]
猿《さる》子《こ》の敵(かたき)を取りし事
若狹の國の百姓、ことの外、猿を愛して、二疋、猿を飼ひけるか[やぶちゃん注:ママ。]、子を、一疋、うみて、二疋の猿、はなはた[やぶちゃん注:ママ。]寵愛し、そたてける[やぶちゃん注:ママ。]。
あるとき、此小猿、庭のまん中に、何心なく、遊ひ[やぶちゃん注:ママ。]て居《をり》けるを、空より、鷹一羽、來りて、何の苦もなく、ひつつかみ、虛空(こくう)に、飛《とび》さりける。
二疋の親猿、ともこれを見て、あるひは、木末にのほり[やぶちゃん注:ママ。]、又、飛上《とびあが》りて、かなしみ、なきけれとも[やぶちゃん注:ママ。]、何方《いづかた》へやらむ、行きかたなく、そのせんも、なし。
それより、二疋の親猿、食《しよく》も、くはず、ばうぜんとして居たりしが、二、三日もすきて[やぶちゃん注:ママ。]、二疋のさる、いつかた[やぶちゃん注:ママ。]へやらむ、朝、とく、出《いで》て、歸へらす[やぶちゃん注:ママ。]。
皆々、ふしき[やぶちゃん注:ママ。]をなして居たりけれは[やぶちゃん注:ママ。]、やうやう、八つ時[やぶちゃん注:午後二時頃。]に歸りけるか[やぶちゃん注:ママ。]、魚のわたと覺しき物を、持《もち》て歸へりける。
其魚のわたを、一疋の猿、かしらに、いたゝき、最前、子猿の居たりし所に、うつくまり[やぶちゃん注:ママ。]居《ゐ》けるが、半時ばかり過ぎて、又、空より、鷹一羽、飛び下り、かの魚のわたを、つかんて[やぶちゃん注:ママ。]、さらむとする所を、やにはに、下より飛《とび》つきて、かの鷹を、とらへける。
あとにひかへし猿も出《いで》て、二疋して、羽かい[やぶちゃん注:ママ。「羽交(はが)ひ」。翼。]を、むしり、くらひつき、なんなく、鷹を喰ひころし、子のかたきを、取りたりける。
「畜類のちゑには、おそろしき事になん、侍る。」
と、かたりし。
[やぶちゃん注:う~ん、ここまでくると、実話というには、ちょっと難しいように思う。]
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