佐々木喜善「聽耳草紙」 一五三番 富士山の歌
[やぶちゃん注:底本・凡例その他は初回を参照されたい。今回は底本では、ここから。]
一五三番 富士山の歌
日本の歌詠みが、秀歌を詠んで唐人《たうじん》に見せた。その歌は、
夏の日は
わが家の…
たのしさよ
富士よりおろす
風の凉しさ。
と謂ふのであつたが、唐人はそれをこう願讀した。
百テクヒヨン
スペリコ
カラズ
チント、キンポロ…
(これは祖父から聽いた話。私の古い記憶故、日本人の名歌の上ノ句を忘れた。夏の日はわが家の庭の樂しさよ…であつたか、また全く別であつたか知れぬ。祖父はどこで聽かれたものか、奧州の百姓老人でもこんなものを覺えていた。唐人の飜讀《はんどく》の方は子供の時幾度も幾度も々々々も繰り返して口遊びにした故不思議にも忘れないでゐる。)
[やぶちゃん注:附記は本文と同ポイントにして引き上げた。最後の丸括弧閉じるは、句点が行末であることから、存在しないが、補った。]
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