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2023/07/21

梅崎春生「つむじ風」(その17) 「からみ合い」

[やぶちゃん注:本篇の初出・底本・凡例その他は初回を見られたい。]

 

     か ら み 合 い

 

 猿沢家のれいの三畳の私室で、猿沢三吉と浅利圭介は額をつき合わせ、ひそひそと相談を交していた。

「そうか。そういうことまで調べてきたか」

 三吉はたのもしげに、この有能な支配人の顔を眺めた。

「メザシ一本槍か。敵も決死の覚悟と見えるな。どうやってそこまで調べた? ノゾキでもやったのか?」

「ノゾキだなんてそんな下品なことは僕はやりませんよ」

 圭介は昂然と顔を上げた。

「出入りの商人に全部当って見たのです。この間までずいぶん買って呉れたのに、近ごろはさっぱりだと、皆こぼしていましたよ」

「酒屋はどうだった。恵之助の奴は大の酒好きの筈だが」

「特級酒を焼酎に切り下げたそうです」

「ううん。焼酎にしたか。煙草屋は?」

「息子はのんでいるが、親爺の方は全然禁煙をしたらしいですな。それから勇寿司ね、あそこにも全然足踏みをしないとのことです」

 勇寿司、という言葉を聞いて、三吉の眉はぴくぴくと痙攣(けいれん)した。かつて恵之助と、飯粒だらけになってつかみ合った古戦場なのである。

「猿沢さんもいよいよ覚悟をきめる時が来たようですな」

「そうのようだな」

 三吉は腕を組んだ。

「昨夜一晩ほとんど眠らずに考えたのだが、わしの考えとしてはだな、うちの三軒もとりあえず十二円に値下げをする。新築の方は突貫工事で完成して、泉湯に圧力をかける。さし当って、そういう対策を取りたいと思うのだがね」

「突貫工事の費用は、どこから持って来るのですか。高利貸ですか?」

「高利貸? とんでもない」

 三吉は身体を慄わせた。

「名古屋の方で、わしらの同業者が、高利貸から金を借りて、たいへんな目にあったそうだ。ある週刊雑誌に、その記事が出ていたよ」

「じゃあどうするんです?」

「上風徳行に頼んで見ようかと思う。あのタクシー会社は景気がよさそうだから」

 そして三吉は声を低めた。

「うちも十二円に値下げするからには、生活の切下げをしようと思う。それでなくては、とてもやっては行けない」

「その方がいいでしょうな」

「向うがメザシで来るなら、こちらは、そうだな、約豆と行こう。わしは納豆(なっとう)はあまり好きでないが、この際万止むを得ん」

「納豆はいいですな。消化はいいし、植物性蛋白質は豊富だし」

「それから従業員の給料も――」

 やや言いにくそうに三吉は発言した。

「一律に二割減らすことにしようと思う。危急の場合だから、これまた万止むを得ん[やぶちゃん注:「ばんやむをえん」。「万事(ばんじ)に亙(わた)って止むを得ぬ」で、ありとあらゆる状況が何もかも仕方がない状態にあることを言う。]

「従業員と言うと、僕もその中に入るんですか?」

「そ、そうだよ」

「そんなムチャな、一方的な――」

「そのかわりに、戦に勝ったら、君だけは五割増しにしてやるよ。な、それで我慢しなさい」

 三吉は慰撫につとめた。

「さあ。家族全員、茶の間に集まるように、あんたから伝えて下さらんか」

 

「以上のようなわけでだ、浅利支配人とも相談の上、わしんとこも十二円に値下げすることにした」

 茶の間のチャブ台を取巻いた家族たちの顔を、猿沢三吉はぐるぐる見廻した。

「十二円に値下げをすれば三吉湯の経済は必然的に赤字になる。だから各方面を節約して、赤宇を少くするようにしなければ、三吉湯は破産してしまう。まず第一に従業員の給料だ。これは一律に二割引きときまった。浅利君がそのように皆を説得して呉れることになった。なあ、浅利君」

 浅利圭介は眼をしょぼしょぼさせ、情なさそうにうなずいた。

「第二には家族の生活経費だ。泉湯の息の根をとめるまで、家族の衣類の新調は一切差止めとする」

「まあ、ひどい」

「まあ、ひどい」

 一子と二美は異口同音に、抗議の叫びを上げた。若い女性の身空として、衣類新調の禁止は、身を切るよりつらかろう。

「そんな横暴がありますか」

「基本的人権のジュウリンよ」

「お黙りなさい!」

 母親のハナコが娘たちを叱りつけた。ハナコは歳が歳であるから新調禁止令にはさほど痛痒(つうよう)を感じないのである。

「三吉湯が栄えるか亡びるかの、大切な時期なんだよ。少しはお父さんの気持も察して上げなさい!」

「そうだ。まったくだ。少しは察しろ!」

 三吉はハナコの言葉に便乗した。

「次には食事だ」

 三吉はまたぐるぐると一同を見廻した。

「浅利君とも相談したんだがね、一人一日当りの食費を、六十円であげて貰うことにする」

「六十円?」

 ハナコは反問した。

「おかず代が、一人一日六十円というわけですね?」

「おかず代じゃない。主食も含めてだ」

「主食も含めて、たった六十円であげろって? そんなムチャな?」

 ハナコは声を上げて嘆息した。

「それこそ基本的人権のジュウリンですよ」

 衣類新調禁止は平気だが、食い物の切下げということになると、ハナコも相当の食いしん坊であるから、承服出来るわけがない。

「何が人権ジュウリンだ!」

 予期せぬ反撃を受けて、三吉も声を高くした。

「かの泉親子は、近頃何を食べているか。浅利君の報告によると、朝は味噌汁一杯だけ。昼晩はメザシに梅干だけという話だぞ。うちだって泉の野郎に負けてたまるか!」

「米代だけだって、一日六十円はかかりますよ」

 ハナコは怒鳴り返した。

「配給米が一キロ七十六円五十銭、希望配給は八十四円五十銭。うちは皆食欲が盛んだから、一人当り三日で二キロは食べますよ。それともあなたは、おかず抜きで、メシだけ食べろと言うんですか!」

「メシだけ食えとは言わん。麦を混ぜればいいじゃないか。サッマ芋なら、もっと安くつく」

 三吉は口角泡を飛ばした。

「その浮いた分を、おかずに廻せ!」

[やぶちゃん注:「配給米」本篇連載時(昭和三一(一九五六)年)、未だ米(こめ)は食糧管理下に含まれており、配給米穀配給通帳(農林水産省発行で、市町村が職務代行で発給を行っていた)によって、国の許可した登録業者から米の配給を受ける管理制度が生きていた。後の昭和四四(一九六九)年から自主流通米制度が発足し、それに伴い四月一日から配給も登録業者以外からも受けられるようになり、昭和四七(一九七二)年三月二十八日を以って米穀は「物価統制令」の項目から除外された(以上はウィキの「米穀配給通帳」に拠った)。]

 

「サツマイモ?」

 ハナコは鼻を鳴らして冷笑した。

「まさか。戦争時代じゃあるまいし」

「我が家にとっては、戦争時代だ!」

 三吉は見得を切った。

「泉湯の野郎たちが、メザシに梅干という戦時体制をとっているのに、こちらだけ安閑として、ぜいたくをしておられるか」

「いいんですか。そんなことを言って」

 ハナコは膝を乗り出した。

「あたしはもちろんのこと、一子も二美も、オサツは大好きなんですよ。あなたがそういう覚悟なら、朝昼晩オサツの一本やりと行きましょう。それなら一人当り、六十円もかかりません。あとになって音[やぶちゃん注:「ね」。]を上げても、あたしゃ知りませんよ」

「そ、それは待って呉れ」

 三吉はたちまち狼狽した。

「な、なにもわしは、食事をオールサッマイモに切換えろ[やぶちゃん注:「きりかえろ」。]と言ってはいない。六十円の範囲内で、質素にして栄養のある食事をつくって呉れと言ってるだけだ。誤解してはいけない」

「…………」

「食事のみならず、生活のあらゆる面を質素化、簡素化して行こうと言うのだ。もちろんわしは、お前たちだけに強要するんじゃない。わしが陣頭指揮、率先垂範[やぶちゃん注:「すいはん」。]して、身辺のムダをはぶこうと思っている」

 その三吉の壮絶な隣組長的弁論も、折柄鳴り渡った電話のベルで中絶した。三吉はごそごそと部屋の隅の小机に膝行(しっこう)、受話器をとり上げた。

「はい。もしもし。こちらは猿沢でございます」

「もしもし」

 きんきんした女声が戻って来た。

「猿沢のおじさま。あたしよ。真知子よ」

 三吉はぎょっと背筋を固くした。

「今月分のお金、どうしたのよ。一葉全集も買わなくちゃいけないし、早く持って来てよ!」

「ま、まいど有難うございます」

 恐怖のため、三吉の声はわなわなと慄えた。

「明日にでもおうかがいします」

「明日じゃ遅過ぎるわ。今日持って来て。持って来ないと、こちらから押しかけるわよ」

「で、では、今日、今から早速、おうかがいします」

 三吉はがちゃりと電話を切り、そっと掌で額の汗を拭いた。ハナコが訊ねた。

「誰からかかったの?」

「上、上風社長からだ」

 そして三吉は、ふうと大きな溜息をついた。

「すぐ来て呉れというのだ」

「上風社長に、毎度ありがとうございますってのは、へんじゃないの」

 ハナコはいぶかしげに、三吉の顔をのぞき込んだ。

「上風社長は三吉湯のお客じゃないわ」

「お客じゃなくても、毎度ありいとあいさつするのは、風呂屋の主人としての心掛けだ」

 三吉は強引にごまかした。

「わしに何十年もつれそっていて、そのくらいのことが判らないのか」

「はい」

  ハナコは不承々々口をつぐんだ。その機を逃がさず、三吉はすっくと立ち上った。

「さあ、わしはちょっと出かけて来る。浅利君。三吉湯三軒の表に、十二円の値下げの告示を貼り出しておいてくれよな」

 愛用のおんぼろ自動車を操縦しながら、猿沢三吉はしんから大きく吐息した。

「まったく驚かせやがる。うちに電話をかけるなと、あれほど言って置いたのに、何たることだ。真知子のやつめ!」

 憤懣やる方ない面もちで、三吉はつぶやいた。

「ハナコに聞かれたら、半殺しの目にあうじゃないか」

 鼓動はようやく収まったけれども、三吉の血圧はかなりはね上っていた。ショックを受けることが、高血圧症にはもっとも悪いのである。

 三吉の自動車は警笛を鳴らしながら、やがて上風タクシーの構内に入って行った。

 社長室で上風徳行は、はさみをチョキチョキ鳴らして、相変らず顎鬚の手入れに余念がなかった。

「やあ。久しぶりだね」

「うん。忙しいのなんのって」

 三吉は上風に向い合って、どっかと椅子に腰をおろした。

「時に上風君。すこし金を融通して呉れんかね」

「金?」

 上風ははさみの手を休めた。

「いくらぐらいだね。何に使うんだい?」

「五十万でも、三十万でもいいよ」

 三吉は片手拝みをした。

「あの新築三吉湯を、早く建ててしまいたいんだ。ところがどうしても金繰りがつかないんだ。あんただけがたよりだよ」

「よして呉れよう」

 上風もはさみを置いて、片手拝みの姿勢となった。

「三十万、五十万だなんて、おれの方がよっぽど借りたいよ。近頃おれんちの野郎ども、気がたるんどると見えて、毎日一件か二件、通行人を轢(ひ)き殺したり、はね飛ばしたりしてるんだよ。弔慰金で、おれんちも上ったりだよ」

「そうかい」

 三吉はがっくりと首を垂れた。

「そいつは弱ったなあ」

「お互いに、不景気風が身にしみ渡るねえ」

「では、二万円、いや、一万五千円でもいいよ」

 三古は首を垂れたまま、掌をつき出した。

「今、貸して呉れえ」

「一万五千円? そりゃずいぶん切下げたもんだな。何に使うんだい?」

「今月分の真知子の手当だ」

 三吉は口惜しげに舌打ちをした。

「うちに電話をかけるなと、あれほど言っといたのに、電話で催促しやがったんだよ。それで泡食って飛び出したんで、財布持ってくるのを忘れたんだ」

「ほんとに忘れたのかい?」

 上風は疑わしそうに三吉を見ながら、内ポケットに手を入れた。

「一週間内に返して呉れよ」

「返すとも」

「返さなきゃ、あんたの自動車を取り上げるよ」

 紙幣束といっしょに、紙とペンを上風はつきつけた。

「一筆書いて呉れよ。自動車を担保に入れるってさ」

「わしの信用も下落したもんだなあ」

 悲痛な声で嘆きながら、三吉はペンを取り上げた。

 

 富士見アパートの横丁に小型自動車が止まり、運転席から猿沢三吉の肥軀[やぶちゃん注:「ひく」。]がごそごそと這い出てきた。アパートの玄関で、折柄出て来た陣太郎と、三吉はぱったりと顔を合わせた。

「おや。陣太郎君か」

 三吉はあたりを見廻し、なるべく唇を動かさないで発声した。スパイの陣太郎と話しているところを、真知子に見られたら、具合が悪いのである。

「おお。猿沢さん」

 陣太郎も調子を合わせて、腹話術的発声法をした。

「真知子は在宅中ですよ」

「知ってるよ。電話がかかってきたんだ」

 三吉は渋面をつくった。

「まだ真知子のやつは、浮気をしないかね?」

「まだやらないようですな。割に品行方正です。猿訳さんだけで満足してるんでしょう」

「満足だなんて、そんな――」

 三吉は嬉しそうな、悲しそうな、また迷惑そうな顔をした。

「これからもよく見張りを続けて呉れ。ぬかりなく頼むよ」

「承知しました」

 陣太郎は合点々々をした。

「それから、おれ、そろそろ生活費がなくなって来たんですよ」

「生活費?」

「とぼけちゃいやですよ。おれに月一万円の生活費を出すという――」

「この間出してやったばかりじゃないか」

 三吉はたまりかねて、唇をぱくぱく動かした。

「まだあれから一ヵ月は経たんぞ」

「でも、なくなったから仕様がないですよ」

 陣太郎の方は相変らず、唇をほとんど動かさなかった。

「金がなくては、生活出来ない。では、おれ、泉恵之助のところに、貰いに行こうかなあ」

「ま、まって呉れ」

 三吉はあわてて両掌を突き出した。

「恵之助に真知子のことを、しゃべるつもりか」

 陣太郎はあいまいな笑いを頰に走らせた。

「と、とにかく、三四日待って呉れ。わしだって苦しいんだ。待てぬことはなかろう」

「三四日ですね。よろしい。待ちましょう」

 陣太郎は胸板をたたいた。

「では今日は、ゆっくり楽しんで下さい」

「浮気のこと、くれぐれも頼むよ!」

 今日は楽しみに来たんじゃないんだぞ、と怒鳴りたいのをこらえ、三吉は忌々(いまいま)しげにそう言い捨て、階段をかけ登った。その後姿が見えなくなって、陣太郎はおもむろに富士見アパートの玄関を出た。

「さて。今日は加納明治を訪問するとしようか」

 とっとっと歩きながら、陣太郎はつぶやいた。

「三吉おやじも相当にしけて来たらしいな」

 三吉は二階の廊下をのそのそ歩き、真知子の部屋の前に立ち止った。扉をコンコンとたたいた。中から声がした。

「どなた?」

「わしだよ」

「ああ、おじさま」

 ノブが廻り、扉は内側から開かれた。真知子の白い顔がのぞいた。

「今月分のお手当、持ってきて下さった?」

 

「持ってきたよ。持って来りゃいいんだろ」

 猿沢三吉は仏頂面のまま、部屋に上り、机の前にどしんとあぐらをかいた。

「何を怒ってらっしゃるの?」

 真知子は茶の用意をしながら、やさしい声で言った。

「おじさまには、怒った顔は、似合わないわ。やはり、にこにこ顔の方が似合ってよ」

「にこにこ笑っていられるか!」

 三吉は腹立たしげに机をどんと叩いた。

「あれほど電話をかけるなと言っといたのに、真昼間[やぶちゃん注:「まっぴるま」。]から電話をかけて来るなんて、わしだったからよかったようなものの、出たのがハナコだったらどうする。身の破滅じゃないか!」

「あら。他の人だったら、あたし、すぐ切るつもりだったのよ。はい、お茶召し上れ」

「いくら切るったって、そんな無謀な」

 三吉は茶碗を取り上げた。

「わしは血圧が高いんだぞ。あんまりわしを驚かせるな。これ以上ギョッとさせると、わしは卒倒して、たちまち死んじまうぞ。わしを殺すつもりか」

「まあ、なんて大げさな」

 真知子は首をかしげ、可愛ゆく嘆息した。

「おじさまを殺すわけがありますか。おじさまが死ねば、第一に困るのはあたしなのよ。折角卒業までの学資が保証されてるのに、今コロリと行かれちゃ、一体あたしはどうしたらいいの? 学校をやめろとでも言うの?」

「だからわしを、大切にしなさいと言うんだ。電話をかけるなんて、もってのほかだ」

「だって、いくら待ってても、今月分持ってきて下さらないんですもの」

 怨ずるような視線を、真知子は三吉に向けた。

「そう言うけれども、わしんちも苦しいんだよ。経済失調にかかってるんだよ。あんたも知ってるだろう。泉湯とのせり合いで、三吉湯も十二円に値下げということになったんだよ」

 三吉はいかにも惜しそうに、内ポケットから紙幣束を引きずり出した。

「これだって、友人から、血の出るような借金をして来たんだ。これ、一週間内に戻さなきゃ、自動車を捲き上げられてしまうんだよ」

「あのボロ自動車を?」

「ボロであろうとなかろうと、自動車は自動車だ!」

 けなされて三吉は若干いきり立った。

「あの自動車がなけりゃ、わしはここに通って来れないんだぞ」

「都電に乗って来ればいいじゃないの」

「都電なんかで、二号通いが出来ますか。ばかばかしい」

「あら。どうして?」

 真知子はいぶかしげな顔をした。

「自動車だって都電だって、変ったところはないじゃないの」

「変ったところはあるよ。しかし、その問題はそれでよろしい」

 三吉はいらだたしそうに話を打ち切った。

「そこでだね、泉湯のバカおやじという奴が、また頑固なやつで、そのうちに十円に、また八円に、値下げして来るかも知れない。それに対抗するには、どうすればいいか」

「こちらも値下げすればいいじゃないの」

「そうだろう」

 三吉は大きくうなずいた。

「値下げに値下げを続ければ、わしんちの経済はどうなるか。あんたにも判るだろう」

 

「そりゃ判るわ」

 真知子は平然として答えた。

「値下げすればするほど、収入が減って、おじさまは貧乏になるんでしょう」

「そうだ」

 猿沢三吉はぽんと膝をたたいた。

「先刻も、あんたから電話があった時、わしは家族一同に対して、一場の演説をしていたのだ」

「演説? おじさまが?」

 真知子はあわてて掌を口の蓋にした。

「笑うな」

 三吉はすこし気を悪くして、語調を荒くした。

「わしだって、必要があれば、演説ぐらいはする!」

「どんな演説なの?」

 口から掌を離して、真知子は三吉にながし目を送った。

「あたしも聞きたかったわ」

「うん。わしが陣頭指揮、率先垂範して、身辺のムダを省こうといった趣旨のものだ」

 たちまち三吉は機嫌を直して、またぽんと膝を打った。

「な、判るだろ。身辺のムダを省こうと公言した手前だな、あんたという存在を、今後もずっと続けて行くというわけに――」

「あ、あたしのことを、ムダだと言うの!」

 きりりと真知子は柳眉を逆立てた。

「あたしのどこがムダなのよ。バカにしてるわ。あたし、怒るわよ」

「あ、あんたの全部がムダだとは言ってない」

 三吉はあわてて両掌で空気を押した。

「つ、つまりだな、あんたという女性は実に立派な女性だが、わしにとってはもうゼイタクであり、ムダであるというわけだ。な、収入がごしごし減って、わしは貧乏になるんだよ。その貧民のわしが、立派な女性であるあんたを囲うなんて、こりゃ全然ムダ――」

「おじさまにとって、あたしがムダであっても、あたしにとって、おじさまは全然ムダでないのよ」

 真知子はぱしりと机をたたいた。

「ムダどころか、大の必要物なのよ。初めからの契約じゃないの。卒業までは絶対に離さないわ。離してたまるもんですか!」

「そ、そこを何とか!」

「ダメ!」

 甲(かん)高い声で真知子はきめつけた。

「おじさま。そんな身勝手がありますか。卒業までは確実に面倒を見るって、最初からの契約ですよ。それを身勝手に、一方的に破棄しようなんて」

「い、いかにもそんな契約をした」

 三吉はおろおろと抗弁した。

「しかしだね。あの契約当時は、わしも商売は繁昌、ふところもあたたかかった。だからあんな契約もむすんだのだ。ところが今は、ごらんの通り、経済失調と相成った。ね、考えても見なさい。わしがあんたに飽きたとか、嫌いになったとかで、契約を破ったのなら責められもしよう。ところがそうじゃなくて、貧乏になって囲い切れなくなったんだから、そこを何とか――」

「貧乏、貧乏というけれど、おじさまが勝手に貧乏になったんじゃないの。その責任をあたしにまで負わすなんて、不合理だわ。不合理もはなはだしいわ!」

 真知子はますます言いつのった。

「それなら値下げしなきゃいいじゃないの」

 

「わしだって、好きこのんで、値下げ競争してるわけじゃない」

 猿沢三吉は口をとがらせた。

「泉湯のやつが値を下げるから、こちらも値下げせざるを得ないのだ。な、頼む!」

 三吉は座蒲団からずり下り、畳に両掌をぴたりとついて、頭を下げた。

「男のわしが両手をついて、頭を下げ、熱涙[やぶちゃん注:「ねつるい」。]と共に頼むのだ。な、つらかろうが、この際何も言わず、わしと別れて呉れ!」

「…………」

「わしに未練もあるだろうが、そこを思いあきらめて、いさぎよく身を引いて呉れ」

 三吉は右腕を顔に持って行き、涙をぬぐう真似をしながら、悲痛な声をしぼり出した。

「あんたと別れるのは、このわしもつらい。血の涙が出るような気持だ。な、わしの気持も察して呉れ!」

「別れてあげるわよ」

 真知子は面倒くさそうに口を開いた。

「え? 別れて呉れるか」

 三吉の面上にたちまち喜色がよみがえった。

「そ、それは有難い!」

「別れては上げますけどね、退職金は呉れるんでしょうね」

「え? 退職金? 手切金のことか?」

「そうよ。今まで真面目に勤めたんだから、退職手当ぐらい呉れたって、当然でしょう」

 真知子はつめたい声になった。

「退職金は、六ヵ月分でいいわ」

「六ヵ月分?」

 三吉は仰天した。

「すると、六万円か」

「そうよ。一週間以内に支払ってちょうだい」

「六万円とは、いくらなんでもムチャな」

 三吉は長嘆息をした。

「二万円ぐらいなら、どうにか都合もつくが、六万円なんて、そんな無法な――」

「では、別れて上げないわ」

「別れて上げない、とは何だ!」

 ついに三吉はむっとして、声を高くした。

「わしも男だぞ。元来男には女を捨てる権利があるんだぞ。その権利を、行使しようと思えば出来るのだが、そこを辛抱して、頭を下げてこうして頼んでいるのだ」

「…………」

「最後の提案として、わしは手切金として、二万円だけ出そう。それ以上はビタ一文も出さん!」

 三吉は肥った手首から、決然と腕時計を外した。陣太郎の真似をしようと言うつもりなのである。

「一分間だけ、わしは返事を待とう。それ以上は待たないぞ。いいか。あと六十秒。五十五秒。五十秒」

「…………」

「あと三十秒……二十五秒」

「…………」

「あと五秒」

 三吉はじろりと真知子を見上げて催促した。

「あと五秒だぞ」

 その瞬間、真知子は白い咽喉(のど)をそらして、けたたましく笑い出した。

「何を笑うんだ」

「そんなバカな真似をするからよ」

 真知子は笑いにあえぎながら言った。

「おじさまじゃラチがあかないわ。あたし、今から、ハナコおばさまに逢(あ)いに行くわ」

「そ、それは待って呉れ!」

 三吉は狼狽のあまり、声をもつらせた。

 

「またやって来たのか」

 加納明治は玄関に立ちはだかり、うんざりしたような声を出した。

「一体何の用事だ? まあ上れ」

「では、上らせていただきます」

 陣太郎はごそごそと靴を脱いだ。加納につづいて、廊下を書斎に歩いた。

「この間はいろいろ失礼致しました」

 陣太郎は両手をぴたりとつき、折目正しく頭を下げた。

「今日は小説のつづきを、少々持って参りました」

「小説? ああ、小説か。忘れてたよ」

「忘れるなんて、ひどいなあ」

 陣太郎はポケットから、折り畳んだ数枚の用端を取出し、うやうやしく加納に差出した。

「もうこれで完結したのか?」

 受取りながら加納は訊ねた。

「いえ。まだです。継続中です」

「まだか。終りまでまとめて持って来たらどうだね」

 加納は表情を渋くした。

「僕は忙しいんだよ。そうそう人に会っている暇はない」

「どうも済みません」

「今日は一人か。あの背高のっぽの秘書君はどうした?」

「ああ。あれはクビにしました」

 そして陣太郎は忌々しげに舌打ちをした。

「あいつは実に悪いやつです。あれを雇い入れたのは、全くおれの眼の狂いでしたよ」

「へえ。そんな悪者かね?」

 職業柄興味をもよおしたと見え、加納はひざを乗り出した。

「見たところ、純情そうな、善良な青年らしかったじゃないか」

「それは猫をかぶっていたのです。まったくとんでもない野郎だったよ、あいつは!」

「何か害でもこうむったかね」

「ええ。害も何も、さすがの陣太郎さんも散々でしたよ。手荒くやられましたよ。アッ、そうだ」

 陣太郎はものものしく膝を乗り出し、声を低くした。

「あの野郎。とんでもない難題を先生にふきかけようとしてるんですよ」

「え? 僕に? どんな難題だい?」

「あの先生の日記ね、おれの油断を見すまして、ちゃんとカメラに撮ってしまったらしいんですよ。全く油断もすきもない奴だ!」

「え? カメラに撮った?」

「ええ。そのネガと引伸し写真をおれに見せびらかしやがってね、これで加納先生から二十万円いただくんだなんて――」

「ムチャ言うな。ムチャを!」

 加納はたちまち顔面を紅潮させ怒声を発した。

「二十万円だなんて、そんな大金が僕にあるか!」

「そうでしょう。おれもそう言ってやったんですよ。二十万円はムチャだとね」

「すると背高のっぽは、何と言った?」

「何とか彼とか御託を並べてやがるんですよ。だから、おれ、怒鳴りつけてやった。二十万円はムリだから、十万円にしろってね」

「十万円?」

「するとあいつ、とたんにへなへなとなってね、十万円でもいいから、万事松平先生にお願いしますと、こう言うんですよ」

 

「十万円。それを君は引受けてきたのか」

 押さえつけた声で言いながら、加納明治は陣太郎をにらみつけた。

「この間十万円をやったばかりじゃないか」

「はい。たしかにいただきました」

「あの時、君は何と言った? 家令の件については、もうこれ以上迷惑はかけないって、そう言ったな」

「だから、おれは何も要求していませんよ。悪いのは竜之助のやつですよ」

「いくら竜之助が悪いといっても、カメラに撮られた油断という点においては、君に責任がある!」

「そうです。その点は、たしかに、おれの手抜かりでした」

 陣太郎はばか丁寧に頭を下げた。

「どうも済みませんでした」

「済みませんで済むことか」

 加納ははき出すように言った。

「帰って竜之助に伝えなさい。十万円は絶対に出さん。五万円ぐらいなら、出してやらないこともないが、それ以上はビタ一文も出さぬって、そう伝えろ!」

「そ、それじゃあおれの立つ瀬は、ないじゃないですか」

 書斎の外の廊下に、先ほどから秘書の塙女史が身をひそめて、じっと聞き耳を立てていた。妙な風来坊の出入りの理由を、探ろうとの魂胆なのであろう。

「おれは十万円で引受けてきたんですよ。男が一旦引受けて、それを半額に値切られ、おめおめと戻れますか!」

「僕に相談もせず、勝手に引受けて、何を言う!」

 加納の声は激した。

「五万円だ。現物引換え、以後一切迷惑をかけぬという条件で、五万円だ!」

「十万円!」

「五万円だ!」

「引受けた以上、おれはどうしても十万円要求します。先生が十万円、出す意志があるかないか――」

 陣太郎はごそごそと腕時計を外(はず)し始めた。

「一分間だけ待ちましょう!」

 その陣太郎の動作を見ると、加納明治は直ちに猿臂(えんぴ)をパッと違い棚に伸ばし、置時計をわし摑みにした。

「よろしい」

 陣太郎はにやりと頰に笑いを刻み、外しかけた腕時計を元に捲きつけた。そこで加納も置時計から掌をもぎ離した。

「月並な手続きは省いて、五万円におまけすることにしましょう。竜之助にはしかるべく説得して置きます」

「あたりまえだ」

 加納は苦り切ったまま答えた。

「現物はどこにある? どこで引換えるんだい?」

「そうですな。今夜の七時、新宿のヤキトリキャバレーではいかがです?」

「ヤキトリキャバレー?」

 永いこと塙女史に外出を禁止されていたものだから、加納も近頃世情にうとくなっているのである。

「そんなものが出来たのか」

「あれ。先生、知らないんですか。では地図を書きましょう」

 陣太郎はノートを破り、鉛筆でさらさらと書き始めた。それをのぞき込みながら、加納は念を押した。

「これ以上迷惑をかけると、ほんとに承知しないぞ!」

 

 午後六時、加納邸の食堂において、加納明治はスープを半分飲み、ヨーグルトを一匙舐めただけで、席を立とうとした。卓上にはまだ肉料理とか、サラダとか強化パンなどが、そのまま手付かずで残っている。

「召し上らないんでございますか?」

 調理台の方から、秘書の塙女史が声をかけた。加納は答えた。

「うん。食欲があまりないんだ」

 加納と塙女史との確執は、そのまま冷戦に移行していたが、近頃加納が気がくじけて弱気になっているために、冷戦の形のまま溶けかかって行く気配が見えるのである。

「なぜ食欲がおありになりませんの。何か心配ごとでも?」

 加納は黙っていた。すると塙女史はおっかぶせるように口をきいた。

「今晩、ヤキトリキャバレーにお出かけになりますの?」

「ヤ、ヤキトリキャバレー?」

 加納はやや狼狽の色を見せたが、たちまち憤然と口をとがらせた。

「さてはなんだな。塙女史は立ち聞きをしたな!」

「はい。しました」

 塙女史はわるびれずに答えた。

「あんなチンピラ風来坊におどされて、金を捲き上げられるなんて、恥かしくありませんの?」

「なに!」

 加納は肩をそびやかしたが、見る見る肩の高さを元に戻して、口惜しげな声を出した。

「じゃあ、どうしたらいいんだい。チンピラ風来坊だなんて言うけれど、女史に撃退出来るのか」

「出来るのかとは何です」

 塙女史は昂然と眉を上げた。

「先生の秘書として、あんなのを撃退するなんて、何でもありません」

「それはまた大きく出たもんだな」

 加納は投げ出すように言った。

「では、女史にまかせることにするか」

「あいつはチンピラだけでなく、インチキです。たしかにインチキ男です」

 塙女史は声を大にして断言した。

「あの人相でそれが判りますわ。わたしもしばらくドッグ・トレイニング・スクールで働いたことがありますから、顔かたちや表情で、内部を見抜くことができますのよ」

「おいおい。犬相と人相とは、一緒にはならないよ」

「いいえ。犬も人間も、大元のところでは同じです」

 女史は腹だたしげに、トンと床を蹴った。

「松平の御曹子なんて、インチキにきまってますわよ」

「インチキかなあ」

 加納は自信なさそうに首を傾けた。

「でも、あいつは、松平家の内部について、いろんなことを知ってるようだよ。たとえば御譜代会とか――」

「そんなの、ちょっと本で調べりゃ、すぐ判りますよ」

 塙女史は電話の方角をきっと指差した。

「ためしに、世田谷の松平家に、電話をかけてごらん遊ばせ。陣太郎というどら息子がいるかいないか」

「そうだな。一度電話してみる必要があるな」

 加納は腰を浮かせた。電話の方に歩いた。

 

 午後七時半、ヤキトリキャバレーの片隅に、加納明治は小さくなって、ひとりでハイボールを砥めていた。慣れない場所だし、周囲のほとんどが年若い客なので、どうしても小さくならざるを得ないのである。

 その時階段をかけのぼり、足どり軽く入ってきた陣太郎が、その加納の背中をぽんと叩いた。

「やあ。先生。お待たせしました」

「お待たせしましたじゃないぞ」

 加納は眼を三角にして、陣太郎を見上げた。

「見ろ。三十分も遅刻したじゃないか」

「ええ。なにしろねえ。竜之助を説得するのに、すっかり時間を食っちゃったんですよ」

 陣太郎はごそごそと、加納の傍の席に割り込んだ。

「それで説得出来たのか?」

「ええ、おれがこんこんと言い聞かせたものですから、やっこさん、すっかり前非を悔いて、涙をぽろぽろ流していたようです」

「そうか。それじゃあタダでネガを戻すと言うんだな」

「いえ。五万円ですよ。タダとは先生もずるいな」

「だって今、竜之助はすっかり前非を悔いたと言ったではないか」

「そうですよ。十万円も要求したという点で、前非を悔いたんですよ。僕としたことが、十万円も要求するなんて、大それたことだ、五万円で我慢すべきだったと、涙をぬぐっていましたよ」

「へんな論理だなあ」

 加納は呆れて、陣太郎の顔をじろじろと見廻した。陣太郎はけろりとして、指を立て、ハイボールを注文した。

「時に、訊ねるが、君の本邸は世田谷だと言ってたな」

「そうですよ。世田谷の松原町」

「今日僕はその世田谷邸に、電話をかけた」

 加納は眼をするどくして、声にすご味を持たせた。

「すると、陣太郎などという人は、全然知らないという話だったぞ。これは一体どういうわけなんだ!」

「あれ、電話をかけたんですか。そりゃまずいことをしたなあ」

 卓をたたいて陣太郎は長嘆息をした。

「それは知らないというわけですよ」

「何故だ?」

「だって今、本邸では、相続問題で、てんやわんやなんですよ。それに――」

 陣太郎はあたりを見廻して、声を低めた。

「まだ先生には話してなかったけど、おれ、実は、妾腹の子なんですよ」

「妾腹?」

「ええ。だからねえ、そこらの問題がいろいろこじれているから、外部から電話をかけて、陣太郎って知ってるかと聞いても、知っていると答えるもんですか。内部のごたごたをさらけ出すようなもんですからねえ」

「…………」

「新聞記者にかぎつけられたんじゃないかと、きっと今頃本邸は大騒ぎしてますよ。先生は自分の名を名乗ったんですか?」

 加納はしょぼしょぼと首を振った。

「まったく先生は余計なことをしましたなあ」

 陣太郎はハイボールをぐっとあおった。

「時に、五万円、持って来たでしょうね」

 加納は更にしょぼしょぼとなり、がっくりとうなずいた。

 

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