佐々木喜善「聽耳草紙」 一五八番 胡桃餅と幽靈
[やぶちゃん注:底本・凡例その他は初回を参照されたい。今回は底本では、ここ。]
一五八番 胡桃餅と幽靈
極く仲のよい夫婦があつた。そのうちに妻が病んで死んだ。死ぬ時、夫(アニ)な夫(アニ)なおれはこの位お前を思つて死ぬんだから、どうか後妻(アトゾヒ)を貰つてケテがんすなやと遺言した。
ところが夫は間もなく別の女を娶つた。それでもいつもの癖がついて居るので、佛壇の前へ行つて拜むと、位牌から女房のビタ[やぶちゃん注:前話で出た通り、女性の陰部を言う。]が飛んで來て男の額にピタツとくツついた。夫はひどく困つて外へも出ないで居たが、亡妻が大變胡桃餅を好きであつた事をひよツと思ひ出したので、餅を搗いて胡桃を摺鉢(カラケ)に入れてガラガラと摺《す》りながら、額をのぞけると案に違はずビタは摺鉢の中にぼツたりと落ちた。
(前話同斷。)
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