奇異雜談集巻第二 ㊅獅子谷にて鬼子を產し事
[やぶちゃん注:本書や底本及び凡例については、初回の私の冒頭注を参照されたい。【 】は二行割注。]
㊅獅子谷(しゝがたに)にて鬼子(おにご)を產し事
京のひがし山、獅子の谷の一村(《ひと》むら)は小里(《こ》さと)なり。
明應七年[やぶちゃん注:一四九八年。]のころほひ、地下人《ぢげにん》の妻、產の時、竒異なる物をうむ事、三度に、をよぶ[やぶちゃん注:ママ。後も同じ。]。
一番の產には、男子を、うむ。つねの人なり。是、嫡子なり。
二番の產には、異形(いぎやう)の物を、うむ【そのかたち、くはしくはきかず。】。
三番の產には、槌子(つちのこ)を、うむ。目・はな・口なきゆへに、やがて、これを、ころしおはん[やぶちゃん注:ママ。]ぬ。
四番の產には、鬼子をうむ。
うまれおちて、すなはち、大なること三歲子(《さん》さい《ご》)のせいなり。
やがて、はしりありくゆへに、父、をつかけ[やぶちゃん注:ママ。]、とりすくめて、ひざの下に、をしつけ[やぶちゃん注:ママ。]てみれば、色、あかきこと、朱(しゆ)のごとし。
兩の目のほかに、又、ひたいに、一目、あり。
口、ひろくして、耳に、をよぶ。上(うへ)に、齒(は)、二《ふたつ》、下(した)に、齒、二あり。
父、ちやくし[やぶちゃん注:「嫡子」。]を、よびて、
「よこづち、持來(もちきた)れ。」[やぶちゃん注:「よこづち」「橫槌」。砧(きぬた)や藁などを打つための、やや太い丸木に柄を附けた槌。頭部の側面で打つところから、かく呼ぶ。底本の挿絵を見られたい。]
と、いへば、鬼子、きゝて、父が手にかみつくを、つちをもつて、しきりにうつて、たゝきころすなり。
人、あつまりて、これをみること、かぎりなし。
その死がいをば、西の大路(おほち[やぶちゃん注:ママ。])、真如堂(しんによだう)のみなみ、山ぎはの、きしの下に、ふかく、うづみたり。
[やぶちゃん注:「真如堂」京都市左京区浄土寺真如町にある天台宗鈴聲山(れいしょうざん)真正極楽寺(しんしょうごくらくじ)の通称。ここ(グーグル・マップ・データ)。
「きし」「岸」だが、ここは崖の意であろう。]
その翌日(あくるひ)、㙒人(やじん)、三人、をのをの、抝子(おうこ)を、かたげて、どうだう[やぶちゃん注:「同道」。]してゆくに、きしの下の土(つち)、うごもてるをみて、
「土龍鼡(うごろもち)あり。」
とて、わうこのさきにて、つけば、鬼子、出《いで》たり。
[やぶちゃん注:「㙒人」「野良(のら)の人」で、百姓のことであろう。
「抝子(おうこ)」この「抝」の字(音「オウ・ヨウ」/こじ(れる)・す(ねる)・ねじ(ける)等の意)は不審だが、読みの「おうこ」から、「枴(おうこ)」の誤刻かと思われる。天秤棒。
『うごもてるをみて、「土龍鼠(うごろもち)あり。」』モグラは畠の地下を縦横に荒らし、田の畦などにも穴をあけるので、彼らは、その「うごもてる」(土が盛り上がって動いている)のを見て、仕事柄、退治しようとしたのである。]
三人、大《おほき》におどろきて、
「是は、きゝをよびし、『獅子のたにの鬼子』なり。たゞ、はやく、うちころすべし。」
とて、三人、わうこをもつて、だゝき[やぶちゃん注:ママ。]ころすに、つゐに[やぶちゃん注:ママ。]、しなざるを、しきりに、うつて、ころしおはんぬ。
縄をつけて、引(ひき)て、京にいたるに、路中(みち《なか》)、おほくの石にあたるいへ共[やぶちゃん注:ママ。「といへ共(ども)」の脱字であろう。]、その皮膚(かははだ)、つよくして、すこしも、やぶれず。
京中の諸人(しよにん)、みて、うちひしぎ、たゞらかして[やぶちゃん注:「爛(ただら)かして」。しかし「皮膚、つよくして、すこしも、やぶれ」ないものを、どうやって爛らかしたんだろう?]、すつるなり。
此事、常樂寺の栖安軒琳公(せいあんけんりんこう)、
「ようせう、喝食のとき、きしの下にて、うちころすを、まのあたり、みたり。」
と、いへりと云〻。
[やぶちゃん注:何とも言えず、生理的嫌悪感、満載。
「常樂寺」京都市下には少なくとも二つはあるので、特定出来ない。
「栖安軒琳公」不詳。]
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