佐藤春夫譯「支那厯朝名媛詩鈔 車塵集」正規表現版 「旅びと」李筠
[やぶちゃん注:書誌・底本・凡例等は初回を見られたい。本篇はここ。]
旅 び と
客 中 頻 見 月
貪 立 露 華 冷
徘 徊 斂 衣 袂
愁 人 畏 見 影
李 筠
草まくら月は飽かなく
立ちつくし濡るる夜露に
さまよひて衣手さむく
己(し)が影は見つつかなしも
[やぶちゃん注:李筠は既出。そちらで示した通り、ネット上では彼女の情報がなく、詩も見当たらず、従って、やはり標題も判らない。以下、推定訓読を示す。
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客中(かくちゆう) 頻りに月を見る
貪(むさぼ)るごとく立ちつくせば 露(つゆ)の華(はな) 冷(つめ)たく
徘徊(はいくわい)すれば 衣袂(いべい) 斂(ちぢ)まれり
愁人(しうじん) 影(おもかげ)を見(おも)ふことをも 畏(おそ)る
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