佐々木喜善「聽耳草紙」 一七八番 屁ツぴり爺々
佐々木喜善「聽耳草紙」 一七七番 啞がよくなつた話
[やぶちゃん注:底本・凡例その他は初回を参照されたい。今回は底本では、ここから。]
一七八番 屁ツぴり爺々
或所に木伐《きこ》り爺樣があつた。山へ行つて、ダンギリ、ダンギリと木を伐つて居ると、山の神樣が出て來て、誰(ダン)だ人の山で、木伐《きこ》る者アと呼ばつた。すると爺樣は、ハイハイ私はミナミナの屁《しり》ツぴり爺々《じんご》で御座ると言つた。そんだら此所さ來て、屁をひツて見ろと言はれた。そこで爺樣は山の神樣の前へ出て四ツん這ひになつて、
コシキサラサラ
コヨウの寶《たから》をもツて
スツポンポン
と屁をたれた。山の神樣は、イヤ全くこれは面白い音なもんだ。よしよしそれではこれから俺の山で何ぼ木を伐つてもええぞと許した。
次の日には、隣の爺樣がその山へ行つて、ダンギリ、ダンギリと木を伐つて居た。すると又山の神樣が、誰だツ人の山で、木伐る者アと呼ばつた。ここだと思つて、ハイハイ私はミナミナの屁ツぴり爺々で御座ると答へた。そんだらここさ來て、屁をひツてみろとまた山の神樣が言つた。
その爺樣は、話は聞いて來たが、どんな風にしてどんな音を出して好《よ》いものだか、遂《う》ひ聽き洩らして來たので、仕方がないから、山の神樣の前へ行つて、四ツん這ひになつて、ウウンツウウンツとうんと力(リキ)んだが、なんぼしてもうまく佳《よ》い音が出なかつた。それで一生懸命にウウンと力むと、グワリグワリグワリツと飛んでもない物を其所へ押し出した。
山の神樣は厭な顏をして、どうもお前はいかぬ。以來此の山の木伐りに來るなと叱つた。
(下閉伊郡岩泉町《いはいづみちやう》邊にある話の、
爺樣の屁の音は、ビリンカリン五葉の松ツポンポン
ポンツで他の部分は同樣である。昭和五年六月二十
三日、野崎君子氏談話一〇。)
[やぶちゃん注:「下閉伊郡岩泉町」岩手県下閉伊郡岩泉町(グーグル・マップ・データ)。]
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