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2023/07/09

奇異雜談集巻第四 ㊇江州下甲賀名馬主の敵をとる事

[やぶちゃん注:本書や底本及び凡例については、初回の私の冒頭注を参照されたい。]

 

    ㊇江州下甲賀(しもかうか)名馬(めいば)主(しう)の敵(かたき)をとる事

 天文(てんぶん)十四、五年の比《ころ》、江州甲賀のこほりの中(うち)、下甲賀(しもかうか)に、ひとりの商人(あきんど)あり。雜役馬(ざつやくむま)一疋もちて、つねに、はうばうの市にゆきて、商賣(しやうばい)す。

[やぶちゃん注:「天文十四、五年の比」一五四五年~一五四六年頃。

「下甲賀」現在の甲賀市(グーグル・マップ・データ)の南部部分。]

 人の錢《ぜに》を、二、三貫、をふて、返弁する事、あたはず。

[やぶちゃん注:人から、商売のために、二、三貫(正規には一貫は銭一千文であるが、江戸時代には、実際には九百六十文が一貫とされた。話柄内時制は戦国時代であるが、読者はその換算で認識したはずである)を借りて(ツケにして)、それが負債となっていたが、賠償することが出来ずにいたのである。]

「今日、三雲(みくも)の市(いち)に、ゆかん。」

とて、錢一貫、こしにつけて。かの馬にのりて、ゆく。

[やぶちゃん注:「三雲」現在の滋賀県湖南市三雲(グーグル・マップ・データ)。甲賀市の北に接する。]

 橫田山の邊にて、かの錢主に、あふ。

[やぶちゃん注:「橫田山」不詳。但し、現在の三雲の甲賀市寄りに野洲川に架かる「横田橋」がある。この南北の山塊の孰れかであろう。現在は、横山橋の右岸は造成されて丘陵が殆んどないが、「ひなたGPS」の戦前の地図を見ると、低いものの、丘陵があるからである。]

 下馬(《げ》ば)して、礼をいふ。

 錢主のいはく、

「此はうの錢、たびたび、さいそくするといへとも[やぶちゃん注:ママ。]、いまに、ぶさた、くせごとなり。今、こゝにて、あふ事、さいはゐ[やぶちゃん注:ママ。]なり。そのはうのこしに、れうそくあり。今、とるべし。」

といふ。

[やぶちゃん注:「れうそく」「料足」で本来は「あることにかかる費用・代価」の意であるが、ここは単に銭の意。]

 かいだう[やぶちゃん注:「海道」。]の事なれば、たがひに、こゑ、たかきゆへ[やぶちゃん注:ママ。]に、ゆきゝの人、せうせう[やぶちゃん注:「少々」。]、立《たち》どまりて、みる。

 錢主は、同道(どうだう)ひとりありて、兩人なり。

「腰なる錢を、出(いだ)せ。」

といへば、

「是は、いま、物をかひにゆく。此分にても、皆濟(かいせい)には、ならず。まち給へ。」

といへば、錢主、

「たゞ、とるへし[やぶちゃん注:ママ。]。」

とて、とりかゝれば、商人、かたなをぬきて、錢主を、きる。[やぶちゃん注:「斬りかかる」の意。]

 錢主、ぬきあはせて、商人(あきんど)を、きる。

 同道の人も、ぬひて[やぶちゃん注:ママ。]、商人を、しとむるなり。

 馬《むま》、おどろき、商人の死《しに》たるをみて、同道の助太刀(すけだち)、うちしもの[やぶちゃん注:「助太刀」とイコール。]に、とびかゝり、臑(すね)に、かみつきて、ふりたをし[やぶちゃん注:ママ。]、ふむゆへに、すなはち、死す。

 錢ぬしは、手おふて[やぶちゃん注:商人の刀で多少の負傷していたことが判る。]、一町[やぶちゃん注:百九メートル。]ばかり、にげさる處を、かの馬、をつかけ[やぶちゃん注:ママ。]、すねを、かみきり、ふみころす。

 見物衆(けんぶつしゆ)、みな、にげさりぬ。

 馬は、そのまゝ、我里(《わが》さと)、下甲賀に、はせゆき、我家《わがいへ》には、いらず、商人《あきんど》の兄(あに)の家《いへ》にゆきて、兄がまへに、ひざを、おり[やぶちゃん注:ママ。]て居(お[やぶちゃん注:ママ。])る。

 兄のいはく、

「此馬は、㐧(をとゝ[やぶちゃん注:ママ。「弟」。])の馬なり。何事に、こゝに、きたりてゐるや。」

 みれば、血、おほく、つきたり。

 あやしむ[やぶちゃん注:ママ。]で、㐧《おとと》の宿(やど)へ、人をつかはして、とへば、内方(ないはう)[やぶちゃん注:妻。]の、いはく、

「先刻(せんこく)、三雲の市(いち)にて、『物を、かはむ。』とて、代《しろ》一貫文(もん)、腰につけて、馬をおふて[やぶちゃん注:「追ふて」。馬に乗って、せきたてて進ませて。]、ゆかれしが、馬ばかり、此方《こなた》へ、かへり、馬に、血のつきたるよし、心もとなく候。」

といふ。

 兄のいはく、

「もつとも。心もとなし。我身(わかみ[やぶちゃん注:ママ。])、ゆきて、みん。」

とて、その馬に、うちのり、むちうつて、ゆく。

 馬も、いさみて、ほどなく、橫田山邊(へん)にゆきぬ。

 人、おほく、あつまりし中(なか)に、知人(しるひと)ありて、さきのくだんのしだいを、つぶさに、かたる。

 㐧《おとと》のしがいをみれば、刀(かたな)は、なし。腰に錢あるを、とる。

 錢主の死がいは、一ちやう、よそに、あるを、ゆきて見、

「さては。此馬《このむま》、たちまちに、主(しう)のかたきを、とる。きどくなる馬なり。」

といふ。

「ちかごろの名馬(めいば)なり。」

とて、國中(こくちう)より、高直(かうぢき)に所望(しよまう)せらるゝなり。

 

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